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混沌とした活気に溢れていた東京のトラップ・シーン

――その間にバウアー本人に会いましたか?

「僕が上京してすぐの成人した頃ですが、DJのSHINTAROさんがバウアーと交流があって、彼から誘ってもらい、確か渋谷ので初めて会いました。お遊びのDJをしていて、昔のM.I.A.の曲を掛けていたのが印象に残っています。そこでいろいろ話を訊いて。どうやってサンプリングしてるんですか?と訊いたら、YouTubeから適当に取っていると言っていたんです。それから僕もYouTubeから声ネタを取るようになって、プロダクション面での影響もありました。最初に会ったときの印象が強いです。フワッてしてる人で、たぶんフィーリングで作っているんだろうなという印象でした。その後、来日したときにも(渋谷の)VISIONに遊びに行きましたね」

バウアーの2012年のDJ
 

――以前に話を伺った時、VISIONにベース・ミュージック系の有名アーティストが定期的に来日して、シーン全体として盛り上がっていた時期があったと言っていましたね。

「ありました。あれは楽しかったですね。5年くらい前、まだここまでベース・ミュージックの人気が日本で出てなかったからこそのチャレンジだったのかもしれない。VISIONを皮切りに1か月に何人も来て、アーティストによって入りはまあまあだったり満杯だったりでしたが、かなり試みとしては実験的でした。僕がいちばん覚えてるのは、まずダブステップのフラックス・パヴィリオン、次の週にミスター・カーマック、キル・ザ・ノイズが来日するという流れがあって、すごく楽しかったんです。そのうちにほかのクラブも触発されたのか、そういうアーティストを呼ぶようになって」

――WOMBやCIRCUS Tokyoですかね。いちばんおもしろかったのは誰ですか?

「ミスター・カーマックの来日は覚えています。カーマックはゲストDJなのに、早い時間からフロアで全然踊っていて、本人の人間性が出ていました。当時、僕はよくVisionでDJしてたので、いろいろなアーティストと話せて、そこでstarRoさんとも知り合いました。あと、カーネイジが来日したときのDJは、音が割れていて、同じ曲を何回も掛けていて……無茶苦茶な感じがあって楽しかった」

 

トラップの楽曲はいかに変容していったか

――Masayoshiくんは、フェスティヴァル・トラップ黎明期の盛り上がりを体験してる数少ないアーティストですが、シーンが躍動していったなかで楽曲的な変化はありましたか?

「途中からダブステップと影響を与え合う状況になりましたよね。初期のダブステップのBPMは140が多かったと思うんですが、いまは150が主流になっています。それにはトラップの影響が大きいと思います」

――それはなぜですか?

「たぶん、フェスティヴァルでダブステップを含むベース・ミュージックのDJが、いろいろなジャンルを掛けるようになったからです。トラップにハードスタイルをミックスするようになった。ハードスタイルのBPMは昔から150。なので、150はハードスタイルもトラップもヒップホップも掛けられる、早すぎず遅すぎずというギリギリのBPMなんですよね。最初はトラップに混ぜるためにBPM140のダブステップをピッチを上げて掛けていましたが、いつのまにか僕がチェックしているようなフェスティヴァル系のダブステップでは、BPM150の曲が多く出るようになっていましたね」

ダブステップの歴史を解説したドキュメンタリー動画。トラップとの合流についても語られている
 

――黎明期のダブステップは、シーケンサー〈FL Studio〉の初期設定がBPM140だから140で定着したんですよね。スクリームが使っていて。それから10年以上経って、ダブステップやトラップを含めたベース・ミュージックのシーン全体が、フェスティヴァル向けに移行していったから、そこに合わせてBPMが変わっていったと。BPM以外の変化はありますか?

「トラップ以外のジャンルでも、トラップのスネアなどが使われるようになりました。フェスティヴァル系もアングラ系も、ドラムだけを聴いたら同じ音が鳴っているのはおもしろいですね」

――それはサンプル・パックが出回ってるから?

「トラップのサンプル・パックが死ぬほど出たのもありますが、音が単純だからですかね。808のスネアやキックの音は単純でいじり甲斐があるので、ダブステップよりも広範囲に使えたからじゃないかな。ダブステップの構成要素はベース・サウンドが主軸だけど、トラップはドラムなので使い勝手が良いんですよね。ダブステップの曲のフィーリングは、ダブステップのなかでしか使えない。ポップ・ミュージックのなかにダブステップのワブル・ベースを入れると浮いてしまってダサくなる曲もある。トラップの構成要素はドラムがメインなので、ほかでも使いやすいんですよね」

――トラップのサウンドは、いろいろな解釈がしやすいということですかね。だから、ここまで広まって、バウアー自身もさまざまなジャンルのアーティストとコラボするようになったんだと思います。

アリアナ・グランデの2018年作『Sweetener』収録曲“God Is A Woman”。トラップを採り入れたポップスになっている