Page 3 / 6 1ページ目から読む

2. The Chicks “March March”

天野「2位はチックスの“March March”です。先週の〈PSN〉で紹介したように、カントリー・バンドのディクシー・チックスが、バンド名から〈ディクシー〉を取って〈ザ・チックス〉に改名。〈ディクシー〉という言葉が南北戦争時代に奴隷制を敷いていたアメリカ南部を想起させるから、という理由です。人種差別への抗議と撤廃運動が広がるいま、それを受けての改名ですね。それと同時に、この曲をリリースしました。まずはMVを観てほしいですね」

田中「とにかくパワフルなMV! まず冒頭で、〈あなたの声に力がないのであれば、彼らはあなたを黙らせようとしないだろう〉との一文が映し出され、その後に現在の〈Black Lives Matter〉を含む、これまでに起こったデモや市民運動の映像がコラージュされていきます。それらに歌詞の一節である〈私自身のドラムに合わせて行進していく/私は1人の軍隊〉というラインが被せられ……」

天野「LGBTQの象徴であるレインボー・フラッグや手話の画、アメリカ史を振り返った写真や映像の数々が、ものすごい気迫を感じさせます。後半は、ジョージ・フロイドさんやブリオナ・テイラーさんといった、警察官による暴力で命を亡くした人々の名前が次々に現れる。急き立てるようなハンドクラップの音もあいまって、静かな迫力を湛えています。それに、サウンドがめちゃくちゃかっこいいですよね。まずは歌とドラムのみでスタートして、徐々にペダル・スティールやフィドル、バンジョーといったカントリー色の強い楽器が加わっていく……。この曲を聴いた安東嵩史さんが、白人保守層向けの商業音楽になったカントリーがそもそも混血の音楽であることを指摘していて、なるほどと思いました」

田中「彼女たち自身の音楽性を失うことなく、現行のブラック・ミュージックにも呼応した素晴らしいアレンジですよね。安易に〈取り入れた〉というのでなく、とてもリスペクトを感じさせるものになっています。あと、歌詞もめちゃくちゃすごい。人々を鼓舞するような内容が基調なのですが、銃所持の問題や地球温暖化、ドナルド・トランプのロシア疑惑など、現代社会のイシューが散りばめられているんです。なお、MVの最後には〈use your VOICE. use your VOTE.〉というチックスからのメッセージが掲げられています。東京都民のみなさまも、日曜日の都知事選の投票をお忘れなく!」