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リスペクトがなく食い散らかしてる感じをめざした

――いまっぽいっていうのは、どの辺を指しています?

「カオスなところ(笑)。今回は音楽的なところで言うと、バラつきがあるじゃないですか。『中学生』は統一感を持たせて作ったんですけど、『告白』は曲毎にバラバラって感じ。そのバラつき加減が、僕のなかでは〈ロキノンのそれ〉に値する気がしていて」

――どういう意味で?

「リスペクトがなく食い散らかしてる感じ(笑)。深く掘らずに、表面だけ掬ってるというか」

――言いたいことはわかるけども(笑)。

「それに僕はおもしろみを感じて、全然ルーツとかを掘らずに曲を作ろうと思ったんです。そしたら意外と変なものができたなと思った。そのバラつきっていうかゴチャゴチャ感が、ちょうどいまの世の中の全方向的な問題意識に繋がっている。自分のなかではそう解釈したんです」

――順番に訊いていくと、『中学生』は僕にとって去年のナンバー1だし、確実に素晴らしいアルバムだったと思うけど、世の中に広まったという手応えはありますか?

「音楽周りの人達には結構届いたはずだし、今回のアルバムにも尊敬する方々がコメントを寄せてくれたので、そういう人達には響いているんだと思います。でも、セールス的なことで言うと全然じゃないですかね。それはそれでいいんですよ。売れたら売れたでいいんですけど」

2019年作『中学生』収録曲“異星人”

――そういう認識のもとで、次はもうちょっと売れそうな内容に軌道修正しようとなってもおかしくはない。でもこの新作はそうじゃないでしょう(笑)?

「一応そのつもりです(笑)。結果的にひん曲がってるけど、売れようっていうよりも、〈もっとどうでもいいもの〉を作ろうと思った」

――前作のインタビューでは〈僕はいい音楽を作ろうというより、とにかくおもしろいことをやりたい〉と話してましたよね。今回はどうでもいいものにしたかった?

「『中学生』はサウンドを凝った感じで、おもしろポイントを音に込めてたんですけど、今回はあくまで曲をメインに考えたんです。デモの段階で変な曲はボツにしました。キモい曲は必要なかった(笑)。サウンド自体も前回と全然変わっているんでやりやすかったですね。前回は生音に近いというか……」

――すごくローファイでしたよね。

「さらになおかつ、低音が出ていたという。前回は、ちゃんと良いマイクで録った音をわざと加工して粗くしたんです。そういうポコポコ感がロック調の曲とかは合わなかった。今回はエンジニアさんもイヤホンで最終ミックスしたし、ポップス――日本の音楽の枠に一応収めるっていう意識がありました。そんな低音が出ているわけでもないし、高音もちゃんと出ている」

――確かに、前作のインタビューではビリー・アイリッシュからの影響とかも語っていたけど、今回はまっとうに音が良いっていうか、普通に感激するタイプの音の良さだと思いました。

「今回、僕自身は音に対してそんなこだわりがなかった。なくはないんですけど、音よりも曲を意識するようになったんです。もっと歌ものにしようと思って。基本的には歌が前提にあって、その伴奏となるベースやギターはできるだけシンプルにしようと。だから、音もそんなに重ねてないですね。とにかく歌を重視したんです」

『告白』トレーラー

 

いまの時代には珍しい、まっとうな言葉

――そこは聴いてみたら一目瞭然ですよね。J-Pop、歌謡曲、フォークにまで通じる歌心が前面に出ている。そういうモードの変化はどこからきたんですか?

「うーん、変化ではないかな。『中学生』みたいなのはもういいかなって。この流れで同じようなやつを作っても仕方ないし、次はもっと自由なことができそうだと思っていました。『中学生』が土台にあるうえで、好き勝手できるっていうか」

――そんなふうに強固になった歌を通じて、伝えたかったのはどんなことですか?  

「まず音と歌詞をちゃんと連動させたいというのがありました。なぜ今回これだけストレートになっているかというと、情報社会のなかで音楽の本質的なところをしっかりやりたいなと思ったから。『中学生』の低音の出方とかは音遊びで、歌詞とは関係ないところでやってた。それに対して今回は、アルバムを通してストレートに伝えたいと思ったんです。

人が何かフィルターを通して……ネットとか回線、電波を通して繋がっている感覚を断ち切りたかったというか。タイトル通り『告白』、そういういまの時代には珍しい、まっとうな言葉を使おうとした。だからそのぶん音やアレンジもストレートじゃないと。無骨にしたかったんです」

――確かに歌ものにはなったけど、比較されるのを嫌がっていたシティ・ポップみたいな洗練性とはだいぶ違う。どちらかというとブルースとかに近い泥臭さ。

「そうですね、J-Popブルースっていうか。“Tokyo”とかもブルースの感じで」

『告白』収録曲“Tokyo”

――“Tokyo”の〈犬も迷う夜/浮浪者たち〉って歌詞とかすごいですよね。この言葉はどこから出てきたものなんですか?

「忘れちゃいました(笑)」

――なんと(笑)。じゃあ、この曲で描こうとしたものは?

「まあ、曲名についてはジョークでもあるんですよね。曲に〈東京〉ってタイトルをつけるの寒いじゃないですか(笑)」

――ベタ中のベタだからね。

「だからこそ、つけたんですけど。東京で育った僕からすると、もうなんか汚ねえ街だなって(笑)。なんで、そのまんまを書きました。冒頭の歌詞は、東京という街のなかで迷子になっちゃったよっていうことを歌って」

――〈夜も迷う夜〉と。

「アルバム全体を通して、迷子になっているという感覚はある。“Tokyo”については、歌詞の最後をちょっと変えたんですよ。もともとは〈故郷、東京〉のあとに〈くたばれ人間〉って、『妖怪大戦争』みたいな感じの言葉を書いていたんです。でも、最終的に〈頑張れ人間〉に変えた。いまの状況的に、それで良かったなと思ってます」