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新作『Pyramid』に聴く、冨田勲への憧憬

――新作『Pyramid』はいかがでしたか?

「ジャガ・ジャジストらしさもありつつ、新境地というか。音の感じもレーベルが変わったこともあってか大きく変化して、新鮮な気持ちで楽しめました。資料にはコンセプト・アルバムではないと書かれていましたけど、結構コンセプチュアルな感じがしましたね。特に“Tomita”は〈冨田勲をリファレンスにしています〉というのを明確に出してやっているところがおもしろいと思った。フェラ・クティをリファレンスにしたという曲も、アフロ・ミュージックを彼らが解釈するとこうなるんだとか、彼らのバックボーン的なところも含めて楽しめました」

――“Tomita”のようにタイトルに直接人名が出てくることってこれまではそんなになかったですよね。

『Pyramid』収録曲“Tomita”
 

「そうですね。今回は全面に押し出している。そこがある意味コンセプチュアルに感じられました。冨田勲へのオマージュと言われて、いままで彼らが出してきた音源含めて納得がいったところがあって。たとえば、彼らの持ち味であるユニゾンによって生のブラスとシンセ・ブラスを一緒に鳴らしている箇所なんかは、生楽器をシンセで再現しようという冨田勲の試みに通じるところがあるんじゃないかと思います」

――フェラ・クティをリファレンスにしているのは3曲目の“The Shrine”ですね。

「自分はフェラ・クティをめちゃくちゃ聴いているわけじゃないんです。でも“The Shrine”を聴いたあとにあらためてフェラ・クティの音源を聴いてみると、こちらも〈なるほどね〉と思って。本人たちが言っているように、まんまコピーしているわけではもちろんないんですが。“The Shrine”では特に、リフの感じにフェラ・クティっぽさがある。今回のアルバムでは“The Shrine”がいちばん好きでした」

――3連のシャッフル・ビートで、リズムがクロスしたりして、アフロ・ビート的な快楽がすごくありますね。

「あと、ここでもブラスとシンセがユニゾンしている。そこがめちゃくちゃ気持ちよくて、彼らの持ち味が出てますね」

――順番が前後しますが、リード・シングルとしてリリースされた2曲目の“Spiral Era”はいかがでしたか。

『Pyramid』収録曲“Spiral Era”
 

「いままでのジャガ・ジャジストっぽくない曲だと思ったので、この曲を先行リリースしたのが意外でした。新しいことをやっていくぞ、という意気込みを感じましたね。この曲は長尺ですけど、目まぐるしく展開するというよりもひとつのメロディーを大事にしていくタイプの曲で、ジャガ・ジャジストにしては珍しい。インタビューを読むと、モーリス・ラヴェルの〈ボレロ〉を参考にしたらしくて。〈ボレロ〉っていわば人類初のミニマル・ミュージックみたいなものじゃないですか。共通するところがありますね。

ジャガ・ジャジストらしさを押し出すのなら、“The Shrine”や“Apex”をピックアップしそうなところだと思うんです。でも、アルバムは1曲目が“Tomita”で、2曲目が“Spiral Era”。そして、リード・シングルに“Spiral Era”を選ぶ。攻めた姿勢ですよね」

――アルバム最後の曲“Apex”についてもお話を伺いたいと思います。この曲は冒頭から登場するシンセのリフが印象的です。

「結構笑っちゃうようなインパクトのリフで、でも展開していくと緻密に音が重なっていく。今作ではわかりやすく踊れる曲だと思います。アナログ・シンセのサウンドがフィーチャーされているあたり、冨田勲へのオマージュと繋がっている感じもします。やっぱり、日本のアーティストへのオマージュとなると、ちょっと嬉しい。これまでも“Shinkansen”という曲があって、日本への目配せはありましたね」

2015年作『Starfire』収録曲“Shinkansen”

 

ひとりの男の内面宇宙を表現する大所帯バンド

――今回のアルバムはレコーディング期間が2週間という短さで、前作が制作に2年もの時間をかけたのに対してすごくギャップがあります。かつ、初のセルフ・プロデュース作。そうした制作プロセスの影響を感じる部分はありましたか?

「音の感じが変わった印象です。逆に、過去の『One-Armed Bandit』とか『Starfire』のときのほうが荒々しかった。あっちが2週間でこのアルバムが2年って言われるほうが納得するくらい。と思いつつ、12分とか長尺の曲を飽きずに聴かせるのって、グルーヴが大事なんだなと感じたんですね。これは以前の作品みたいにメンバーをひとりずつLAのスタジオに呼ぶような形にはせずに、みんなで2週間がっつりスタジオに入って息を合わせたことがよい結果になったんだろうなと」

――バンドが演奏している風景みたいなのが想像しやすいですね。楽曲自体は整ったソングライティングで演奏もタイトですが、それだけに2週間の濃密さが感じられます。

「そこが効いているのかな。〈みんなで一緒に演奏しました〉というのがないと、ここまでおもしろい内容にはなってなかったと思います」

――ポスト・プロダクションが今回はそこまで目立たず、演奏したものがぽんと出てきたように感じます。

「確かに。とはいえ、サウンドは整えられていて、奇麗に並べてある。前までの荒々しさみたいなところが影を潜めていますね。さっきも言いましたけど、根底にあるのはラーシュのなかにあるプリミティヴな感情や彼が持っている世界、彼の宇宙だと思っていて、一個人の混沌とした感情を覗き見しているようなおもしろさがあります。それは今作にも感じられるところ。ジャガ・ジャジストの曲って壮大で、宇宙みたいなスケール感を感じるんですが、ただ広大だというよりも、ひとりの内面に広がる宇宙のような独特の印象があるんです。整っているのに、混沌が感じられて……。

たとえばぶっ飛んだ展開も多いですし、意表をつくフレーズが出てくることもある。〈全員が作曲者です〉っていうバンドもおもしろいですけど、ジャガ・ジャジストはひとりがソングライティングを引っ張っていることのおもしろみが強く出ているバンドだと思います。

『What We Must』にはデモが入っていて、Spotifyなどでも聴けるはずなんですが、それと本チャンの曲を聴き比べると、デモをきっちりなぞるように作られている曲もあって。そこに〈ラーシュの出したい世界をみんなで表現しよう〉という意気込みを感じたんですよね。今作もラーシュがかなり譜面をしっかり書いたという話をしていますし」