大統領選をめぐって
音楽活動ではないものの、これについてはどうしても触れなければならないだろう。2020年11月、アメリカ大統領選挙に立候補していたカニエは、6万票以上を集めたが落選した(ただ、2024年の大統領選出馬への意欲を見せている)。
いっぽう選挙前に行われた「フォーブス」によるインタビューでは、陰謀論的な反ワクチンの態度を明らかにし、人工中絶反対論的な発言をしたことで、かなりの非難を浴びた(これらの発言は、2018年のドナルド・トランプへの支持表明や〈奴隷制は「選択」だったように聞こえる〉という発言に匹敵する議論を呼んだ)。これについて妻のキム・カーダシアンは、Instagramストーリーでカニエのメンタル・ヘルスについての声明を発表、彼の双極性障害への理解を求めた(なお、キムは2021年2月に離婚を申請し、現在親権や養育権についての協議が進んでいるようだ)。
その後、2020年のクリスマスには、サンデー・サーヴィス(Sunday Service)としてEP『Emmanuel』をひっそりと発表した。
2021年、『Donda』リリース以前のカニエ・ワークス
2021年の動向については、少し詳しく見ていこう。
カニエは、5月にリリースされたDMX『Exodus』の“Prayer”にプロデューサーとして、7月にリリースされたポップ・スモーク(Pop Smoke)『Faith』の“Tell The Vision”でラッパーとしてフィーチャーされるとともにプロデューサーとして参加したことで話題を呼んだ(DMXは2021年4月に逝去、ポップも2020年2月に銃撃事件で命を落としており、いずれもポスチュマス=没後の作品である)。
また、ファッション・デザイナーとしては、2020年にパートナーシップを締結したGapとのコラボレーションがついに始動、熱望されていたコラボ・ライン〈YEEZY GAP〉が話題になっている。
メルセデス・ベンツ・スタジアムでの1度目のリスニング・パーティー
さて。音沙汰のなかった『Donda』については、急転直下の展開が待っていた。7月22日20時にアトランタのメルセデス・ベンツ・スタジアムでアルバムのリスニング・パーティーが開催され、その模様がApple Musicで配信されることが、19日に突如アナウンスされたのだ。
Thursday. pic.twitter.com/5TmyNkTBfH
— Def Jam Recordings (@defjam) July 19, 2021
また、21日には陸上競技選手のシャカリ・リチャードソンが出演したビーツのCMがNBAファイナルで発表、『Donda』の収録曲“No Child Left Behind”が使用されており、大きく注目された(なお、シャカリは東京オリンピックにアメリカ代表として陸上女子100メートルに出場する予定だったが、ドーピング検査でマリファナの陽性反応が出たため、オリンピックの出場資格が剥奪された選手だ)。
22日、リスニング・パーティーは予定よりも1時間50分ほど遅れてスタートし、約50分で終了。カニエは「AKIRA」の金田を思わせる真っ赤なYEEZY GAPのラウンド・ジャケットに身を包み、フル・フェイスのマスクを着け、スタジアムの真ん中にたたずんでパーティーを楽しんでいた。
No one man should have all that power pic.twitter.com/nr9AJmboRR
— Def Jam Recordings (@defjam) July 24, 2021
また、不仲説がささやかれていたジェイ・Zとのひさびさの共演曲が披露されるなど、アルバムの内容は多くのファンを驚かせた。
リスニング・パーティーが終わった23日、ついに『Donda』がリリースされるのかと思いきや……結局アルバムはリリースされなかった。その後、「REVOLT」のパーソナリティーであるジャスティン・ラボイ(Justin Laboy)からリリースが8月6日に延期されることが発表された(いっぽうカニエは、『Donda』を8月5日にリリースすることをInstagramで示唆した)。
なお、リスニング・パーティーのライブストリーミングは、330万人の視聴者が観たことによって、史上最多の視聴者数記録を打ち立てた。