エンドロールのあとにも物語は続く
――聞いたところによると、今作は1年以上かけてのレコーディングだったんだとか?
松坂「そうですね。制作期間すべて合わせると2年くらい?」
松田「うん、たぶんそれくらいはかかってると思う」
――長期化した理由は主に何だったんでしょうか?
松田「今回はVICTOR STUDIOの宮沢竣介さんというエンジニアにお願いしたんです。とても多忙ななか合間を縫って進めてくださったんですが、台風によってスタジオが雨漏りしたり、進まない時期もあって。あの頃は精神的にもキツかったですね。でも、僕らとしては宮沢さんに対する信頼もあったし、ここは焦っても仕方ないなと。それに時間をかけたぶん、松坂とアルバムのイメージを共有する時間がたくさん持てたのは良かったなって」
松坂「そうですね。もし今回のアルバムを一週間で一気に録ってたら、たぶんあとから〈こうすれば良かった〉みたいなことがいろいろ出てたかもしれない」
――各曲のアレンジや微調整に時間をたっぷりかけられたと。
松田「そうですね。隅々まですべてに目を向けられたというか、レコーディング前の確認作業がしっかり出来たのは良かったなと。特にこのアルバムの最後に収録されてる“End roll”と“Ordinary Morning”はライブでもずっとやってきた曲で。この2曲の並びでアルバムを締めるっていう構成も、アルバムの曲がすべて揃う前から決めていたことだったんです」
――終盤2曲の並びは今作のキモですよね。この〈エンドロールのあとに続きがある〉という構成には、何かヒントがあったのでしょうか?
松田「それこそエンドロールのあとにまた物語が始まる映画ってあるじゃないですか。僕はそういう構成がわりと好きで、映画館でもそこを期待してすぐには席を立たない。自分の作品もそういう感じに出来たらなと思ったんです。変に綺麗に着地させないというか、続きがあってまた最初からリピートしたくなるような作品にしたいなって。なので、〈エンドロール〉のあとに〈いつもの朝〉が来るという構成にしました。アルバムを通して、ちょっと歌詞も映画っぽいイメージというか、画(え)を思い浮かべながら書く感じはありました」
――なるほど。参考までに、松田さんのフェイヴァリット・ムーヴィーをいくつか教えていただけませんか。
松田「『主人公は僕だった』(2006年)という作品が好きですね。僕が昔好きだった女性にこの映画をオススメしたら、〈主演のウィル・フェレルの顔が生理的に無理で話は入ってこなかった〉という感想を言われ、そのときは彼女に2度振られた気がしました(笑)。そういう想いなんかも歌詞に反映されてるからちょっと暗いのかも。あとはジョン・カーニーの作品(『はじまりのうた』『シング・ストリート 未来へのうた』など)のように音楽に寄り添ったものも好きですね。
そういう映画を観たり、本を読んだりして何か思いついたら、メモを書き留めておくんです。自分の歌詞はそういうメモや過去の想いから出来ていくので、あまりがんばって書く感じでもないというか。こうしてアルバムを作って、曲を整頓させてみても思ったんですよね。自分の世界って結構狭いんだなって(笑)」
――〈狭い〉というのは?
松田「実はもうセカンド・アルバムに着手してて、最近も新しい曲を結構作ってるんですけど、それらの楽曲は特に映画とかにインスパイアされたわけでもなく、自分の気持ちをそのまま書いてるんです。でも、実際にそこで書いたことは今回のアルバムに入ってる曲の世界観とあまり変わらないというか。それこそコロナで大変な時期に書いた曲でもそんな感じなので、さすがに自分でもちょっと不安になりました(笑)」
――社会的に大変な時期でも松田さんが歌いたいことは揺らがなかったということ?
松田「そうなのかな。そう思っていただけるとありがたいです(笑)」
――松田さんの歌詞はどういうことについて歌っているものが多いと、ご自身ではお考えですか?
松田「そのときどきで異なるし、曲の雰囲気によっても歌いたい想いは違うけれど、今回のアルバムなら“Delay”という曲の歌詞には希望を込めました。生活のなかで持ち続けていたい希望についての歌です。アルバムを通して聴いたら、全体的に少し暗い歌詞が多いと感じるかも。でも、その暗い闇の中に光が見えたら、見えてくれたら嬉しいですね」
誰もが気になる第3の男、釜瀬雄也
――もう次作に取り掛かってると。
松坂「今作のレコーディングが終わる前から、もう次に向けた曲を作り始めてたんです」
松田「それこそ最近は家にこもっている時間がたくさんあったので、次作用の曲数はすでにかなり揃ってるんです」
――それは楽しみ。ファーストが出たばかりのタイミングで気が早い話ですが、次作はどのような作品になりそうですか?
松田「次は釜瀬の書いた曲が多くなると思います」
――へえ! それは先ほどまでの話からは予想もつかない展開ですね。
松田「〈曲を書いて送ってよ〉と釜瀬に言ったら、忘れた頃にたくさん送られてきたので、それらをもとに僕ら2人でアレンジするっていうパターンが最近は増えてるんです。なので、サウンドのイメージはかなり変わりそうですね」
――釜瀬さんはどんなソングライターなんですか。
松坂「なんていうか……独特だよね(笑)USインディーが好きらしくて、たとえるならワイルド・ナッシングとか、ああいう感じかな」
――ギターにリヴァーブがかかってて、ちょっとサイケな感じ?
松坂「うん、そんな感じですね。いずれにしても、次作は今回以上に曲のヴァリエーションが増えるんじゃないかな」
松田「あと、たぶん釜瀬は日本一ピッキングが小さいギタリストだよね(笑)。あいつが弦を6本一気に弾き鳴らしてるところ、見たことないもん」
――釜瀬さん、話を聞けば聞くほど気になりますね。早くも次作が楽しみになってきてしまいました(笑)。
松坂「あいつに会う人みんなそう言うんですよ。なんか気になるって」
松田「そうそう。そこがちょっとずるいよね(笑)」