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プロフェッショナルなアーティストに生まれ変わった

オアシス、ビーディ・アイと2つのバンドを失い、一時はアーティストとしての活動すら危ぶまれたリアム。本作では、彼がそこからどのようにして這い上がり、どのようにしてアルバム『As You Were』を作り上げていくのかを丁寧に追っていく。

プロデューサーの一人、ダン・グレッチーマルゲリットと小さなスタジオに入り、膝を突き合わせながら楽曲を詰めていくやりとり。オアシス時代には頻繁に使っていたアビー・ロード・スタジオで、再びオーバーダビングの作業が行えることを素直に喜んでいる表情。ミックスダウン中に確かな手応えを感じ、「俺なら(このアルバムを)買うぜ」などと興奮を抑えながら呟く様子。まるでデビューしたばかりの新人アーティストのような、そんな初々しいリアムの姿にグッとくる。

「リアム・ギャラガー:アズ・イット・ワズ」
9月25日(金)TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー 
© 2019 WARNER MUSIC UK LIMITED 配給:ポニーキャニオン
 

売れっ子プロデューサーであるグレッグ・カースティンも数曲を手掛けた『As You Were』は、2017年にリリース。オアシス時代の彼を知らないティーン層にも受け入れられ、全英1位を獲得した。

前妻の子供たち(レノン、ジーン、モリー)とも良好な関係を築き、毎朝ランニングに勤しみ、ファンがサインを求めれば気軽に応じる現在のリアムには、かつての〈破天荒なロックンロール・スター〉の面影はほとんどない。あの頃の振る舞いを悔い改めながら、家族や友人、パートナーと充実した日々を送り、自己管理を徹底しながら過酷なツアーを回る彼は、今や〈プロフェッショナルなアーティスト〉だ。

「リアム・ギャラガー:アズ・イット・ワズ」
9月25日(金)TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー 
© 2019 WARNER MUSIC UK LIMITED 配給:ポニーキャニオン
 

 

兄との対話が、次の一歩か

さて、そんなリアムに残された最大の課題は、やはりノエルとの和解ではないだろうか。というのも本作中、兄に対する自身の複雑な胸中を明かすシーンがしばしば映し出されており、未だ精算されぬ〈わだかまり〉に苦悩し続けていることが、痛いほど伝わってくるのだ。

リアムとノエルの和解。決してそれは、〈オアシス再結成〉を望むから言っているわけではない。寧ろ、お互いソロも軌道に乗り、オアシス再結成など持ち出す必要もなくなった今だからこそ、〈対話〉という課題に取り組む準備が整ったとも言えるはず。たとえそこで和解が出来なくとも、兄への執着を手放すことが出来れば、リアムはアーティストとしてさらに一歩前に進むことができる。エンドロールで流れる“Once”(2019年のセカンド・アルバム『Why Me? Why Not.』収録曲)の、〈It was easier to have fun back when we had nothing(俺たち、何も持っていなかった頃の方が気楽だったよ)〉という歌い出しのフレーズを聴きながら、ついそんなことを考えていた。

映画の全編を通じて、ビーディ・アイにソロと、終始リアムの歌声を堪能できるのはファンとして垂涎モノ。シューゲイザー/ドリーム・ポップをこよなく愛する筆者としては、なぜかビーチ・ハウスの“Zebra”(2010年)とマジー・スターの“Fade Into You”(93年)が作中で流れるのも嬉しかった。


INFORMATION

映画「リアム・ギャラガー:アズ・イット・ワズ」
監督:ギャビン・フィッツジェラルド/チャーリー・ライトニング
出演:リアム・ギャラガー/ボーンヘッド/ノエル・ギャラガー/ポール・ギャラガー/クリス・マーティン ほか  
配給:ポニーキャニオン(2019年 イギリス 89分)
© 2019 WARNER MUSIC UK LIMITED @AsItWas_Movie
2020年9月25日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開
https://asitwas.jp/
https://twitter.com/AsItWas_Movie