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ベニー・シングスとの共作から始まった、音楽を自由に作るプロジェクトYaffle

──これまで様々なアーティストの楽曲提供やプロデュースを手掛けてきた小島さんが、2018年にYaffleをスタートしたのは、どのような経緯だったのでしょうか。

「そもそもは“Empty Room”という曲をベニー・シングスと共作して、それをリリースしたかったのがきっかけでした。その際、今までの音楽活動とは別軸のことがしたかったんです。

プロデュース・ワークの場合、手がけるアーティストのストーリーや文脈も重要なファクターの一つになるので、音楽のクォリティーのことだけを考えればいいというものではないじゃないですか。一度そういうところから離れ、自由に音楽だけを作りたかった。なので、〈海外ミュージシャンとのコラボ・プロジェクト〉というコンセプトは、ある意味では後付けだったんですよね」

Yaffleの2018年のシングル“Empty Room feat. Benny Sings”

──ベニー・シングスとの共作は、彼が来日しているタイミングで実現したそうですね。

「それが初対面で、特にリリースの予定もないまま〈とにかく作ってみよう〉という話で始まったコラボは、この時が初めてだったかもしれないですね。ベニーとスタジオに入り、ゼロから〈ああでもない、こうでもない〉と詰めていきました。

まさか自分が、こんなに英語を使う日が来るとは思ってもみなかったです(笑)。おかげで海外レコーディングへのハードルもグッと下がりましたね。それまでは、事前にちゃんと準備をしなければ無理だと思っていたのに〈なんだ、意外と簡単にできるものだな〉と思えたのは大きかったです」

──今作『Lost, Never Gone』では、パリ、ロンドン、ストックホルム、そしてアムステルダムとヨーロッパ4か国で作業をされたそうですね。

「アルバムに収録されたのは4か国ですが、収録されなかった曲も含めるとかれこれ10か国ぐらい回っています」

──もともと旅はお好きなのですか?

「好きですね。大学の卒業間際、初めて海外旅行してから味を占めたというか(笑)。しかも、当時より気軽に海外へ行けるようになったじゃないですか。だからこそ、今回のようなレコーディングも可能になったんです。バスで移動しなきゃならないような環境だったら、おそらくこんなことやってないと思いますね」

──基本的には一人で行かれるのですか?

「誰も付いてきてくれないんですよ。初めて訪れるスタジオなど、〈コンコン〉ってノックするときに毎回緊張します。しかも、約束の時間に行っても相手が一向に来なかったり、集合場所がめちゃくちゃ治安の悪いエリアだったり、色々と大変な思いもしました。

ただ、どこかでそれを楽しんでいるところもありますけどね。ハプニング好きではあるので、何事もなく終わってしまうよりは、乗る電車を間違ったりした方が旅をしている感じはします」

 

現代的なコライト=共作によって生まれた『Lost, Never Gone』

──ちなみに、コラボレートするアーティストはどのように決めているのでしょうか。

「まずは行きたい国を決めてから、そこで活躍するアーティストをリストアップしていきます。その中から曲を聴いて、シンプルにグッと来る人に声をかけていますね。〈完成形を見据えて〉みたいなのはあまりなくて、純粋に〈あ、この人とやってみたい〉と思ったら、お願いする。仕上がりが簡単に予想できる人だと、コラボレーションとしてはちょっとつまらないじゃないですか」

──コライトの仕方は、やはりアーティストによっても異なってきますか?

「そう思います。ただ、定石みたいなものはある程度ありますね。僕は日本人アーティストとのコライトはあまりしたことがないのですが、海外のアーティストはビートとトップライン(メロディー)の分業にあまり抵抗がないというか。ビートを渡してトップラインをポンと出すのは別の脳味噌を使うし、ある程度〈慣れ〉が必要になってくると思うんですよ。

要は自分のアイデアを他人にさらけ出さなければならないし、そこで相手に微妙な顔をされたらすぐに別のアイデアを出していかなければならない。そうやってトライ・アンド・エラーで詰めていくのがコライトなのですが、そこで羞恥心が働いちゃうとなかなかうまくいかないですよね」

──アイデアを〈却下〉されたとき、自分自身を否定されたような気持ちになってしまう人だと難しそうです。

「そうなんですよ。討論と人格攻撃が混ざっちゃうと、〈じゃあもうやんない!〉みたいなことになっちゃうんですよね。そこをパキッと分けて考えられる人だったら、〈それよりこっちの方がいいんじゃない?〉みたいなやり取りが自然にできる。慣れも必要なのかなと思います」

『Lost, Never Gone』収録曲“À l’envers feat. Elia”

──コラボ相手に導かれることで、自分だけでは思いもよらなかったところまでたどり着けるところもコライトの醍醐味でしょうね。

「ある意味〈外注のディレクション〉というか、自分の思い通りにならないこと自体を楽しめる価値観が必要。少なくともコントロール・フリークの人には向かない作業ですよね。もちろん、どちらがいい悪いではないし、コントロール・フリークの作曲家でも素晴らしい人はたくさんいますが、ある程度のところまで人に任せることができる人の方が、コライトには向いていると思います」

 

喪失から得るもの

──アルバムを作る上で、サウンド面でのコンセプトやテーマなどありましたか?

「どちらかというと、表層ではあまり現れないような部分でのコンセプトは決めていました。それは、タイトルである『Lost, Never Gone』が象徴していて、僕はこれを〈喪失を悲しむ必要はない〉という意味で捉えているのですが、そのワン・イシューだけ事前に決めて、それをコラボ相手と共有してから毎回作業をしていました。〈こういうテーマで、こういうアルバムにしたいと思っているんだけど〉と。

それに対して、相手がどう歌詞に落とし込んでいくのかはお任せしたというか。出来上がった歌詞に対してのサジェストは、最小限にとどめましたね」

──アルバム全体に〈孤独感〉や〈喪失感〉が漂っているのは、そういうプロセスがあったからですかね。

「そうだと思います。今回のアルバムのように、フィーチャリング・アーティストを複数並べる場合は統一感を出すのってすごく難しいんです。曲ごとに〈歌声〉が変わっていくので、トラックメイカーが作るアルバムは得てしてコンピレーション・アルバムみたいになりがちですが、そうはしたくなかった。

上流だけ閉めて、あとはどう出るかはお任せというか。その方が結果的にいいものができるだろうなと思っていました」

『Lost, Never Gone』収録曲“Lost, Never Gone feat. Linnéa Lundgren”

──〈喪失を悲しむ必要はない〉というテーマは、コロナ禍で聴くと心に染みるものがありますよね。レコーディングは昨年ですから、この状況は予想もしなかったと思うのですが。そもそもこうしたテーマを取り上げたのはどうしてだったのでしょうか。

「喪失した後も、その喪失したものに対して自分がすごく影響を受けているなと思うことが多いことに気付いたんです。年齢もあるとは思うんですよ、歳を重ねるほどに失うものは増えていくわけですから。そういう、失ったもの、失われたものに引っ張られながら人生を歩んでいると思うことが多いと気づき、そこからこのテーマを選びました」