構成・演出:村川拓也「ムーンライト」(Moonlight) 撮影:前谷 開

――別の俳優がこの作品を完コピして再演するっていうことはありえますか?

村川「今はそういうことは考えてないですね」

長島「そこはすごく考えさせられるところですね。戯曲ベースの作品というのは、演じる俳優の取り替えがきくということが前提です。古典なんか、時代が変われば当然そうなるし、同時代的に複数の人がそれを演じることもできる。でも、この作品はそういうものではない。

 現代演劇では2000年代に、ドキュメンタリー演劇と呼ばれる大きい流れがありました。世界的にも有名なのはリミニ・プロトコルというドイツのグループで、F/Tにも何度も来ています。このポイントのひとつは、作中に本人ないし本物が出てくることですが、実は僕はだんだん危うさも感じるようになってきました。

 作品が当たって、ワールドツアーをやるようになったりすると、やっぱりキャストが入れ替わらざるをえないんですね。つまり、取り替えがきくようになってくる。その場合、パターンがふたつあって、ひとつは代役を立てること。もうひとつは、コンセプトだけがパッケージ化されて、どこでもローカライズできるようになること。

 たとえばF/T13で、『100%トーキョー』という作品が上演されました。それは、その都市の人口構成に合わせて、一般の方から年齢・性別・職業などを基にして100人の出演者を選び、舞台上ではアンケートに答えるかたちで、その都市の自画像をあぶり出すというものです。

 リミニ・プロトコルは、それを海外の各都市でやっています。この手法は、各地の特徴を浮かび上がらせるのに有効だし、参加した人もお客さんも楽しんでいるけれど、気をつけないと、作品にとって出演者が消耗品になってしまう。昨年マンチェスターで見たリミニ・プロトコルの新作は本当に素晴らしかったから、こうした手法がダメというわけではないのですが、ドキュメンタリー的なものが、うっかりすると別のかたちで人の交換可能性を促進するようにも感じるんです。

 村川さんの作品だって、そうなる可能性もあると思うんですが、拝見している限りとても自覚的に、そうならない方に重心をかけていらっしゃるようです。でも一方で、人に会ったから作品ができるというよりは、その前から想定していたことや企画のフレームがしっかりあるんだなと思いました」

村川「そうですね。僕もよく『出会いから始まった』とか言うんですけど、厳密には出会い以前から決めている事がありますね。僕が一番いいなと思うのは、伝わらなかったり共感もできないんだけど、なんかいっしょにいるっていう状態ですね。わかりあうとか共感とか言われても、お互いに他人なんで、100%共感できるなんてありっこないじゃないですか。だから、そこは諦めてるのかもしれない。それだったら、わかりあえっこないけど、なんか一緒にいるっていうのでいいじゃないのっていうところが、自分の性格としてあるような気はしますね」

 


村川拓也(むらかわ・たくや) 左
演出家、映像作家。映像、演劇、美術など複数の分野を横断しつつ、ドキュメンタリーやフィールドワークの手法を用いた作品を発表する。介護する/される関係を舞台上で再現する『ツァイトゲーバー』(F/T11公募プログラム)は、HAU(ベルリン)の「Japan Syndrome Art and Politics after Fukushima」(14)を始め国内外で上演を重ねている。16年東アジア文化交流使(文化庁)として中国・上海/北京に滞在。フェスティバル/トーキョーには『言葉』(12)以来の参加となる。京都芸術大学舞台芸術学科・映画学科非常勤講師。

 

長島 確(ながしま・かく) 右
1969 年東京生まれ。立教大学文学部フランス文学科卒。大学院在学中、ベケットの後散文作品を研究・翻訳するかたわら、字幕オペレーター、上演台本の翻訳者として演劇に関わるようになる。その後、日本におけるドラマトゥルクの草分けとして、さまざまな演出家や振付家の作品に参加。近年は演劇の発想やノウハウを劇場外に持ち出すことに興味をもち、アートプロジェクトにも積極的に関わる。東京芸術祭2020「プランニングチーム」メンバー、東京藝術大学音楽環境創造科特別招聘教授。

 


LIVE INFORMATION

フェスティバル/トーキョー20(F/T20)
会期:2020年10月16日~11月15日(日)
会場:東京芸術劇場/トランバル大塚/豊島区内商店街/F/T remote(オンライン会場)ほか
www.festival-tokyo.jp/

「ムーンライト」(Moonlight)
〇10月31日(土)18:00開演・11月1日(日)15:00開演
会場:東京芸術劇場シアターイースト
上演時間:約70分(予定)
上演言語:日本語
構成・演出:村川拓也
ドラマトゥルク:林立騎
出演:中島昭夫 他

一般前売チケット、F/T remote(オンライン配信)視聴券発売 発売中
8組のアーティストによる作品など、13以上のプログラムを実施予定
※内容は変更になる可能性がございます。
主催:フェスティバル/トーキョー実行委員会豊島区/公益財団法人としま未来文化財団/NPO法人アートネットワーク・ジャパン、東京芸術祭実行委員会〔豊島区、公益財団法人としま未来文化財団、フェスティバル/トーキョー実行委員会、公益財団法人東京都歴史文化財団(東京芸術劇場・アーツカウンシル東京)〕
お問い合わせ:フェスティバル/トーキョー実行委員会事務局
〒171-0031東京都豊島区目白5-24-12 旧真和中学校4階
TEL:03-5961-5202
Email:toiawase@festival-tokyo.jp
Twitter:@festivaltokyo
Facebook:@FestivalTokyo
※詳しくは公式サイトへ
https://www.festival-tokyo.jp/