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4. “Mad At Disney”で歌う現代的な女性像

そんなイリースが生んだ運命の一曲“Mad At Disney”は、彼女がLAに来て初めて書いた曲だ。

SALEM ILESE 『Mad At Disney』 HomeMade Projects/TenThousand Projects/Caroline(2020)

★セイレム・イリース“Mad At Disney”の配信リンクはこちら

きっかけは、2019年に共にソングライティングをしていたジェイソン・ハーズ(Jason Hahs。“Mad At Disney”の作曲にも参加している)がつぶやいた〈I’m really mad at Disney〉という言葉。そこからインスピレーションを受け、〈白馬に乗った王子様が自分を助け出してくれることを夢見ていたのに、実際には好きな男性にデートをすっぽかされてしまう理想と現実の差〉をひとつのポップソングへと昇華させた。

実は、イリースは「幼い頃からディズニーの大ファン」。「ディズニー作品を観て育ってきた」ものの、「少し現実的ではない」ディズニー映画のプリンセス像に対する思いをあえて歌った。

「どの映画を観てもプリンセスはいつも困った状況にいるのだけれど、それを王子様が助け出してくれるのを待っているわよね。それに最後は毎回ハッピー・エンドで幕が降りる。でも現実世界というのはそうじゃない。女性だからって助けてもらうのをじっと待ってる必要なんてない」。

「特に若い女の子たちに、この曲を聴いて自身のなかのパワーを感じてほしいの。たとえ自分が完璧なプリンセス像に当てはまらなかったとしても、全然大丈夫。プリンセスになれるってこと。それを知ってほしいの。それに王子様に助け出してもらう必要なんてないってことも。自分らしさを失わなければ、それで誰もが100点満点だと思う」。

“Mad At Disney”は、〈囚われのお姫様は王子様の助けを待つだけ〉〈女性はか弱いから男性から守られるべき存在〉といった古臭い男女関係の在り方に異議を唱えている、とても現代的な女性像を打ち出した歌だ。「実際には、愛にはもっといろんな形がある」と、イリースは多様性の時代について語る(だからこそ、彼女はディズニー・プリンセスのなかでは「力強くて逞しいヒロイン」かつ「破天荒なプリンセス」である映画「メリダとおそろしの森」のメリダが好きなのだとか)。

 

5. TikTokヒットで掴んだ大きな成功

2020年7月にリリースされた“Mad At Disney”によって、イリースの才能はホームメイド・プロジェクツ(Homemade Projects。“Sunday Best”でブレイクしたサーフェシズらが所属するレーベル)の目に留まる。そして、彼女は21歳の誕生日=8月19日に契約を交わした。

イリースが“Mad At Disney”の動画をTikTokに投稿したのは、それと同じ日だった。動画はすぐさまバズりはじめ、視聴回数はうなぎのぼりに。そうして、“Mad At Disney”は瞬く間に世界中の若者から共感を呼ぶヒット・ソングになった。

“Mad At Disney”の歌詞や曲調に合わせたTikTok動画は日本を含む世界中で現在も爆発的に増え続けている。動画はディズニー・プリンセスのコスプレをしたものやコミカルなリップ・シンクが多く、〈(本当はディズニーが大好きだけれど)ディズニーに怒っている〉というイリースの現代的なメッセージに多くのTikTokユーザーが共感していることがわかる(ぜひ“Mad At Disney”を使ったTikTok動画を見てほしい)。

“Mad At Disney”を使ったTikTok動画のコンピレーション

“Mad At Disney”のヒットはTikTokだけに留まっていない。8月末からストリーミング再生の回数も急上昇した。9月にはSpotifyの〈グローバルバイラルトップ50〉で1位に輝き、さらに日本でも1位を獲得。9月上旬のストリーミング回数は、なんと1日に100万回を超えたという。

そんなふうに〈“Mad At Disney”現象〉が起こっているのは、ひとえに楽曲の魅力と、それを作り出したイリースの才能ゆえだろう。“Mad At Disney”とイリースの成功は、王子様不在でみずから掴み取った〈シンデレラ・ストーリー〉だ。

 

2020年のハロウィンは“Mad At Disney”で決まり!

コスプレ動画がたくさん投稿されているとおり、“Mad At Disney”はハロウィンにぴったりの楽曲で、これからさらに動画の投稿が増えそうだ。

ミュージック・ビデオはずばりハロウィンを連想させるもの。カラフルな仮装をしたイリースがパーティーに繰り出す、「ディズニーが現代世界とぶつかり合ったエッジのある」内容だ。

“Mad At Disney”ミュージック・ビデオ

TikTokハロウィン〉の企画にも注目を。イリースは10月30日(金)19:00に出演してパフォーマンスをする予定で、「すっごく幼い頃の話になるけど、3年連続ハロウィンでティンカーベルに仮装してた(笑)」というイリースの衣装やメイクにも期待したい。

また“Mad At Disney”のすごいところは、いまもTikTokでも人気曲であり続けていることだろう。現在は〈#ポップコーンデュエット〉(歌詞の一部が空白になった動画とのデュエットにチャレンジするもの)の定番曲になっており、ナオトインティライミのチャレンジが話題になった。

@naotointiraymi

@tiktokmusicjp さんと一緒に##デュエット @salemilese む、むずい!脳トレやね##MadAtDisney ##ポップコーンデュエット ##歌ってみた ##カバー ##fyp ##ナオトインティライミ ##Naoto

♬ オリジナル楽曲 - TikTokMusicトレンド

そして、“Mad At Disney”はイリースにとってまだホームメイド・プロジェクツからのデビュー・シングルである。イリースはミュージシャンとしてこれから羽ばたいていく存在だ。歌声の力強さから、〈フィーチャリング女王〉としてひっぱりだこになるかもしれない。

マーン&セイレム・イリースが9月にリリースしたシングル“Splinter”

「一発屋では終わりたくないの。年内にはあと数枚のシングルと、来年にはもっと大きなプロジェクトを計画している」。

彼女自身がそう語るように、今後の新曲やアルバムで、シンガーとして、そして作曲家として、どんな表情を見せてくれるのかが楽しみでならない。

「早く日本に行きたい。日本に行ったら伝統的な和食にも挑戦したいし、もちろんショッピングも楽しみたい。それから応援してくれてるファンのみんなと直接会って、思いきりハグしたい。そうね、早く安全にハグできる日が来ることを祈っているわ」。

彼女が愛する「セーラームーン」を生んだこの国にイリースが来てくれることを、心から祈っている。

 


EVENT INFORMATION
TikTokハロウィン
2020年10月25日(日)~10月31日(土)
※セイレム・イリースは10月30日(金)19:00に出演
https://activity.tiktok.com/magic/page/ejs/5f88db1d2420a302cd1251a0