ヒップホップの本質は人を踊らせること
――HSIENはMCもこなしつつ、ビートも作って忙しそうですね。
HSIEN CHAN「僕がやるしかないからね。結成して4年近く経つけど、実は一度もスタジオに入ったことがないんだ。レコーディングも含めて、制作は全部僕の自宅だよ」
――完全なるDIYですね。それでも今作の音のクォリティーには感心させられました。キックもパンチが効いてて、黒っぽい揺れのあるグルーヴとか、豊かなコーラスとか、ディテールにとてもこだわっていますよね。
HSIEN CHAN「〈ヒップホップの本質は人を踊らせること〉であることにようやく気付いたんだ。だからビートとグルーヴには特にこだわっている。細部にこだわることで、Banyan Gangらしいサウンドメイクが確立され、トラックを聴いただけで僕たちだと気づく人も出てきているので、手応えを感じているよ」
――制作現場はトライ&エラーの連続だったんでしょうか?
HSIEN CHAN「そうだね。本当に地道な作業だよ。今作は半年近くかけて作ったし、毎日5、6時間は音楽と向き合っていた。自宅をスタジオにして良いのは、ちょっとした雑談や試行錯誤から新しいアイディアが生まれるところかな。ハイエンドなスタジオに時間制限ありで入ったとしても、生み出せないものがあると思う」
Banyan Gangのジャンルレスな音楽性はどう培われた?
――メンバーそれぞれ、どんな音楽から影響を受けたんですか?
HSIEN CHAN「僕はジャズ・ヒップホップとブーンバップ※だね。Nujabesと西原健一郎からも大きな影響を受けている」
Leerix「台湾のポップ・ミュージックやアメリカのヒップホップを聴いて育った。Jay Chou(周杰倫)は僕のアイドルだよ。ただし初期の方に限るね」
Warren K「台湾のポップ・ミュージックかな。Leehom Wang(王力宏)なんかが好きだったよ」
HSIEN CHAN「この“盖世英雄”は2005年の楽曲だね。00年代初期の台湾ポップスにはR&Bやヒップホップの要素が入ってきているんだ」
――なぜこの質問をしたのかというと、Banyan Gangのサウンドから多彩な音楽性を感じたからです。今作ではイルカポリス 海豚刑警のMarko Woo(伍悅)やIt’s Your Fault 問題總部のHana(丁佳慧)といった、ロック・バンドのヴォーカリストもフィーチャーされています。そこで面白い化学反応が生まれているように感じます。
HSIEN CHAN「実際、僕たちは台湾のインディーズのバンドもかなり聴いているんだ。コラボレーションするときは、相手に全てを委ねるようにしている。僕たちでは思いつかないようなアイデアや解釈が生まれるし、そういう異なる価値観のぶつかり合いこそがコラボレーションの真髄だと思う」