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どうしようもないダメ男の美学

――楠さんのこだわりが見えたところで、続いて藤岡さんのソングライティングについてはいかがでしょう? 本作では“ラグタイム”と“ツリー”が収録されています。

西川「藤岡さんの曲はデモの時点で、ドラムとベースも入った状態で共有されるのでイメージがわかりやすいんですけど、音をどう抜くかで攻めていく印象があって。だから鍵盤の入れ方にいつも悩みます。the circusっぽい〈ダルさ〉はあるけど、藤岡さんらしさがしっかりあるから、アルバムの中では雰囲気を変えてくれる2曲だと思います」

「藤岡の書く歌詞には、男の哀愁が漂っていると思う。自分には書けないです」

藤岡「歌詞は悩みながらも自分を制御せずに書いているんですけど、確かに、残念な男の話は好きですね。うだつがアがらなくて、ちょっと痛くて、みんなに指を差されて笑われているような」

『PARK』収録曲“ツリー”
 

――それはどういうものからの影響ですか?

藤岡「村上龍さんの小説かな……読書家では全然ないのですが、村上龍だけはほぼ読んでいます。あと今思いついたのだと『青い春』(2001年)という映画。ミッシェル(THEE MICHELLE GUN ELEPHANT)が全編で流れていて最高なんですけど、松田龍平が演じた主役の対極にいる新井浩文の役が好きなんです。意地を張って引っ込みがつかなくなって最後は自殺する。ほんとどうしようもない男なんですよ。そういう世界が詞に表れている気がします。『イージー・ライダー』(69年)も太った男(デニス・ホッパー演じるビリー)の方がめっちゃ好き」

――“ツリー”の歌詞の最初〈野暮ったいジーパンとレモンツリー〉にそのちょっとハードボイルドな一面がよく表れていますよね。では3人目として西川さんはいかがでしょう。7曲目に“夢の日々”が収録されています。

「まだ何にもなっていないまっさらな感じがいい。真由ちゃんがギターの弾き語りで作ったものを僕が編曲したんですけど、純粋さが羨ましいと思いました。でも歌い出しが〈単純なことしながら浮かんだ君の慰め〉なんて初めて曲を書いた人の歌詞とは思えないほど引き込まれます。アレンジのテーマはギルバート・オサリバンの音でユーミンのグルーヴ」

『PARK』収録曲“夢の日々”
 

藤岡「僕だったら曲を作りこんでしまうのですが、いい意味で飾り気がなくまとまっているのがいい」

――7曲目に入っているのがちょうどアルバムの折り返しでいい役割を果たしていると思いました。景色が切り替わる印象を受けますね。

藤岡「確かに曲順はレコードのA/B面をイメージして考えていたので、まさに“夢の日々”はB面の1曲目の意図です」

西川「the circusには曲が書ける人がいるので、自分が書く必要はないと思っていたのですが、これを機に初めて曲を作ってみました。何から始めればいいのやらという感じでしたが何とか形にできてよかったです」