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やってきたことに応える必要がある

 コモンの通算10枚目のアルバムであり、ノーIDが主宰する(デフ・ジャム傘下の)アーティウム移籍第1弾となる『Nobody’s Smiling』は、コモンの言葉を借りると〈シカゴとヒップホップ・コミュニティーへの恩返し〉が制作の大きな動機になっている。そんな彼の思いがわかりやすく反映されているのが、キング・ルイやリル・ハーブといったシカゴの新進ラッパーのポートレートがあしらわれたアルバムのジャケットだ。

 「シカゴの新しいラッパーたちをジャケットに起用したのは、彼らこそがいまのシカゴを代表する若者たちで、アルバムの制作にあたって考えたことやシカゴの現状を象徴しているからだよ。いまのシカゴのヒップホップ・シーンは最高だ。チーフ・キーフやリル・ダークは真実を語ってる。チャンス・ザ・ラッパーだってそう。シカゴの現在と多様性を皆に見てもらいたいんだ」。

 ほぼ全編がシリアスなトーンで統一されたアルバムは、リル・ハーブをフィーチャーした“The Neighborhood”で幕を開ける。ここではシカゴが誇るソウル・レジェンド、カーティス・メイフィールドの“The Other Side Of Town”(70年)の一節が引用されているが、そこにコモンとハーブのラップが交錯する様は、まさにシカゴのゲットーの過去と現在がオーヴァーラップするかのようだ。それはゲットーを取り巻く状況が昔から何ひとつ変わっていないことを示唆すると共に、この問題の根の深さを聴き手の眼前にまざまざと炙り出す。

 〈俺は街の向こう側で生まれ育った/そこじゃヨソ者は立ち入り禁止/分かち合いや思いやりを学んだこともなければ/平等が何かを教わったこともない〉(カーティス・メイフィールド、“The Other Side Of Town”より)

 〈会話すら生まれないイーストサイドでは、どいつもこいつも感情に任せて突っ走る/誰も暴力を止められやしないのに、なぜこの街は嘘をつき続けるんだ?/仲間たちがピースサインを掲げても、次々と人々が死んでいく〉(リル・ハーブ、“The Neighborhood”より)

 「プロデューサーのノーIDとは、とにかく何か新しいことをやろう、やったことのないことをやろうって話をした。なぜ僕たちがヒップホップをやり続けているのか、なぜヒップホップに惹かれ続けているのかを徹底的に話し合ったよ。ヒップホップは僕たちの人生に多くのものを与えてくれたから、恩返しをしたいんだ。僕は自分自身に正直でいたいし、自分がこれまでに成し遂げたことの陰に隠れたくない。単に自分に正直になるだけじゃなく、これまで達成したことに応える必要があるんだよ」。

 今回の『Nobody’s Smiling』は、実はコモンがノーIDの全面プロデュースのもとで作り上げた初のアルバム『Resurrection』(94年)のリリース20周年を祝福する作品でもある。そんな機会に改めてヒップホップと真摯に向き合い、こうして素晴らしい結果を導き出した彼らは、全力でサポートする価値のある真に誠実なアーティストだと思う。このあと9月、コモンは同郷のカニエ・ウェストと組んでシカゴの地域貢献を目的とした音楽フェスティヴァル〈AAHH! Fest 2014〉を開催する予定だ。