パール・ジャムとビリー・アイリッシュの共通点
パール・ジャムとビリー・アイリッシュ。音楽的には似ても似つかぬ両者だが、クリス・コーネルの娘リリー・コーネル・シルヴァーが〈IGTV〉で行っているメンタル・ヘルスについての対談番組「Mind Wide Open」にゲスト出演したエディ自身も、「たくさんの人がビリー・アイリッシュの音楽を聴いてるけれど、俺たちのファースト・アルバムを思い出したよ。あそこ(『Ten』)には悲しい曲もいくつかあったし、〈これに何千万人も共感しているなんて、ちょっと気が滅入るな〉とも思ったんだ。でも、よくよく考えてみれば、それって誰にとっても健全なことだったんだよね」と言及している。
時代を射抜くリアルな視点……という意味では、両者が〈環境問題〉というイシューで繋がっていることも無視できないだろう。パール・ジャムの最新作『Gigaton』のアートワークに起用されたのは、地球温暖化の影響で氷河が溶け始める様子を捉えたポール・ニックレンの写真「アイス・ウォーターフォール」。実写とアニメーションを組み合わせた“Retrograde”のミュージック・ビデオには、気候変動に対して何も対策しなかった場合の〈最悪の未来〉を見せる占い師として、環境活動家のグレタ・トゥーンベリが登場している。
そんなグレタに「道を切り拓いているよね」と賛同を寄せるビリーは、自身のツアーやインタビューでプラスチック・ストローの廃止/マイ・ボトルの持参などを促したほか、気候変動をテーマにした“all the good girls go to hell”のMVを公開した際、インスタグラムのストーリーズで次のようなメッセージを発信。
今この瞬間も、世界にいる何百万人もの人たちが、各国の指導者たちに向けて地球温暖化への迅速な対応を求めている。私たちの地球は、いまだかつてない速度で温暖化している。極地の氷は溶け、海面は上昇し、野生生物たちは毒され、森林は燃えている。
2人の娘を持つ父親として、エディがグレタやビリーの活動にインスパイアされたであろうことは想像に難くない。
また、ビリーはメンタル・ヘルスについてオープンでいることの重要性を公言し、自殺防止団体のキャンペーンにも参加しているが、エディもまた数多くの死や悲劇を乗り越えてきた。周知の通りクリスは2017年にツアー先のデトロイトで自ら命を絶ってしまったのだが、彼とは兄弟のように親しかったというエディは、リリーに対してこんなことを話している。
「君のお父さんが書く歌詞には、確かにダークなものがあった。それはカート(・コバーン)の歌詞もそうだし、レイン(・ステイリー)だってそうだ。別に彼らは〈暗い歌詞を書くフリをしなきゃ〉と思っていたわけじゃなくて、みんなにとってそれがリアルなことだった」。
リリーとエディの対話は非常に意義深いもので、コロナ禍以降、日本でも芸能人やアーティストを含む自殺が相次いでいる。死を選んだ当事者の苦しみは本人にしかわからないが、多くの人が自分の弱さや辛い経験を人にシェアすることは恥ずかしいことじゃないんだと理解し、対話を通して少しずつ歩み寄っていくしかないのだろう。以下に著書「なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門」で知られる音楽学校教師/産業カウンセラー、手島将彦氏の言葉を引用したい。
メンタル面で起きてしまう問題の多くは、その当事者ではなく環境の方に問題があるかもしれない、と考えてみることが大切です。そしてできることなら、そもそもメンタルの問題が生じないように、誰もが生きやすい社会を目指すべきなのだと思います。
Rolling Stone Japan掲載の記事〈もし「死にたい」と打ち明けられたら――最も悲劇的な“自殺”について考える〉より