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本物が求められる時代になる

 〈SNSからFace 2 Face〉というラインが突き刺さる“Face 2 Face”、スマホやタブレットを介して架空の自分を演出する社会を風刺した“Instabation”など、アルバム前半には強いメッセージを含む楽曲が並んでいる。このことについてMicroは「僕の日本語の歌詞からアルバムが始まるのも今回が初めてなんですけど、それは自分に言いたいことがあったから」と説明する。

 「いまの社会の現状も大きく影響しているでしょうね。コロナ禍があってリモートワークが普及したり、いいこともあるんだけど、特に若い子たちはもうSNSに疲れてしまっていて。加工した自分になろうとして、苦しんでる人たちもいますからね。この先は〈リアル〉〈本物〉を求める方向に振り切るのは間違いないと思います。SNSにハマっている人たちも必ず〈やっぱり本物は違う〉という価値を必要とする。その時に僕らが何を見せられるかですね」。

 一方で、YAYをフィーチャーしたアルバム後半の“Make Some Noise”は、初期のDef Techを想起させるアッパー・チューン。90年代半ばのヒップホップを強く感じさせるトラック、〈騒げ!〉と観衆を煽るようなラップのもたらす躍動感が気持ちいい。

 「Shenのスタジオで〈一発かましたいんだよね〉と聴かせてくれたのが、この曲のトラックで。こういう曲があることで、他の曲がさらに映えて、アルバムのヴァリエーションも広がったと思います。お互いにジュラシック5を聴いて育ったし、『ワイルド・スタイル』にも刺激を受けたし、ストリートも経験してきて。僕は95~96年あたりのヒップホップが最強だと思ってるんですけど、“Make Some Noise”にもそういう雰囲気がありますね」。

 さらに〈君といる時のこの僕が好き〉というパンチラインに心を掴まれるラヴソング“I Like Me(Day Time)”、5年前にハワイのスタジオで録音したというオーガニックなバラード“Best Days”、ハワイアン直系のサウンドとダンスホール・レゲエが結びつき、〈その痛み悲しみ/そう長くは続かないから〉と語りかける“All I Want Is Your Love”などを収録。アニヴァーサリー・イヤーを飾る『Powers of Ten』は、彼ら自身にも確かな充実をもたらしているようだ。

 「いつも行くビーチでかけても、みんなすごく盛り上がってくれて。ファースト・アルバムに似た初期衝動があるというか、〈聴いて聴いて〉って純粋に思えるのがすごく良かったなって」。

 今後のヴィジョンについて「ハワイにも恩返ししたいし、世界に打って出たくて。過去の成功体験は幻みたいなもの。40代から50代に向けて、世界に向かう基盤を築いていきたい」と語るMicro。その原動力となるのは商業的な成功ではなく、〈人を楽しませたい〉というピュアな欲望だ。

 「エンターテイメントの世界で成功するというより、エンターテインしたいんですよね。曲を聴いてくれる人やライヴに来てくれる人を喜ばせたいし、もてなしたい。この10年はずっとそんな感じだし、僕ら自身もそれが楽しいんです」。