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では、『NEED』の収録曲をいくつか紹介したい。アルバムの始まりを告げるのは、“Sing -a cappella-”。冒頭の〈歌が必要だ 俺にはどうしても〉という歌詞は、本作を象徴する言葉であると同時に、渋谷すばるというアーティストの根本的な姿勢を示している。どんな状況になろうと、俺には歌が必要だし、それを世界に向けて放ち続けるんだ――アカペラによるこの曲を聴けば、現在の彼のモチヴェーションがはっきりと感じ取れるだろう。

3曲目の“BUTT”は、彼の音楽のど真ん中にあるロックンロール・ナンバー。鋭利なギター・リフ、心地よいグルーヴを生み出すピアノ、渋谷が奏でるいぶし銀のブルースハープがぶつかり合うサウンド、そして、感情をむき出しにして楽しそうに叫び、歌うヴォーカルは、まさに彼の真骨頂だ。

先行配信された“人”は、〈どんなことがあっても、人を傷つけてはならない〉という真摯な思いが響くナンバー。本質的なメッセージをシンプルな言葉で紡ぐセンスも、渋谷の大きな武器だと思う。ピアノと歌を中心とした素朴なアレンジも、歌詞に込められたピュアな感情を際立たせている。

そして、個人的にもっとも心に残ったのは、10曲目の“素晴らしい世界に”。未来の展望がまったく見えず、重苦しいムードが蔓延している現在。それでもなお、人と人が心を繋ぎ、希望と優しさに溢れた世界を諦めない――。コロナ禍における希望の在り方を叙情豊かに描き出した名曲だと思う。

アルバムの最後を飾るのは、“Sing”。1曲目と同じく〈この世界には歌が必要だ〉という思いを込めた楽曲だ。心になかにあるものを歌という形にすることで、必ず心と心で繋がることができる。それこそが、渋谷が歌にこだわり続ける最大の理由なのだろう。

歌という表現が持つ力強さ、奥深さをダイレクトに感じられるアルバム『NEED』。ここに込められた言葉とメロディは、先が見えない世界で生きる人々に様々な気づきと大きな勇気を与えてくれるはずだ。渋谷すばるの本領が発揮されるのはやはりライブ。『NEED』の楽曲が大勢のオーディエンスの前で響く瞬間を心待ちにしながら、アルバムをじっくり堪能したいと思う。