前2作に続き、プロデューサーはブレンダン・オブライエン、ミックス担当はマイク・フレイザーという体制。何も変わっていない。それは、変える必要がないからだ。もちろん、良くも悪くも常に不変だと言われることの多い彼らの音楽にも、変化が皆無というわけではない。ただ、それは露骨な具体的差異ではなく、経年に伴う成熟度と、ひとつひとつの技の研ぎ澄まされ方の度合いの違いだ。

たとえばブライアンの切れ味の鋭いシャウトは今作でも健在だが、その歌声にこれまで以上に艶っぽさを感じさせられる。シンプルな構造の楽曲を印象深く盛り立てていく、コーラス・アレンジの巧みさにも改めて唸らされる。そしてやはり、このギター・リフの応酬がたまらない。結局、AC/DCは、自分たちが持っていないものに手を出すことではなく、あらかじめ持っていたものを磨き上げることで成熟を重ねてきたのだ。

前任フロントマンのボン・スコットが亡くなったのは1980年2月19日のこと。その後任にブライアンが迎えられ、彼にとって初の参加作にあたる『Back In Black』が発表されたのは同年7月のことだ。当時も彼らの堂々たる帰還には驚かされたものだが、同作が発売40周年を迎えた今年、まさかこんなにも瑞々しいAC/DCの作品を手に取ることができるとは。この『Power Up』の登場は、力尽きかけていた世界がパワーを増していく切っ掛けになり得るのではないだろうか。マルコムの命日直前に登場するこの作品が、2020年のネガティヴな記憶をプラス方向に切り替えてくれることを願っている。