飲み仲間からはじまったアーロン・チューライとの友情

――なるほど。先ほど自分の表現したい世界観が見えたって話がありましたね。今回の“sign”にも〈今変わる時“見えた”〉という歌詞がありますけど、具体的にどういう表現をめざしたいと思ったんですか?

「いままでジャンルに囚われず数多くのアーティストとコラボしてきたから、リスナーからはいろんなスタイルができるラッパーっていうイメージを持たれてるかもしれないんですけど、最近あらためて〈自分はどういうところにいちばん行きたいんだろう〉って考えたんですよ。俺のスタイルにはやっぱヒップホップとジャズが根底にあって、最近は出演したい場所とかもイメージしながら制作することがあります。例えばBLUE NOTEやBillboard Liveとか。そのためにも今後は、自分のルーツがしっかりと匂う楽曲を作ることを、さらに貫いていきたいっていうところですかね」

――つまりは、より自分のルーツに忠実な音楽ということですか。アーロン・チューライさんプロデュースのもと制作された“sign”もいわばその始まり?

「そうですね。アーロンと出会って、〈俺はこういう人たちともっと濃くやっていくべきだな〉って思った。そういう意味でもこの曲がそのサイン」

――アーロンさんのこれまでの活動に対してはどんな印象を持ってました?

「〈ホンモノを纏う人たちと一緒に間違いない音楽を発信してる人〉って感じですかね。演奏している映像とかを観てもめっちゃカッコいいなと思っていました。彼の弾く鍵盤は自分にとってドンピシャのメロディーだし、彼の作るビートも最高にクール、いつか共演してみたい存在でした」

――彼との出会いについても聞かせてもらえますか。

「東京にライブをしに来たとき、たまたま出会うタイミングがあって。そこで話しかけたら向こうも知ってくれてて〈会いたかったよ〉みたいな。そして、後に俺が上京し、中目黒のsolfaに遊びに行った際に偶然再会して、〈いまどこに住んでんの?〉っていう話をすると、お互い(家が)かなり近いことがわかった。ただの飲み仲間からスタートしました(笑)」

――じゃあ曲作ることありきというのでもなかったんですね。

「別にすぐ曲作ろうっていうテンションでもなく、2人で飲んでるところに石若駿くんが来たり、仙人掌くんが来たりと彼の仲間とも交流するなかで、信頼関係が生まれ、アーロンから〈SERVERに合いそうなストックがあるからちょっと送ってみるよ〉みたいな話があって……」

アーロン・チューライとDaichi Yamamotoの2020年の楽曲“All Day Remix”。GAPPERと仙人掌がフィーチャーされている
 

――あくまでも自然な流れで曲をやることになったっていう。

「そうですね。遠隔で制作するのは意外と簡単だと思うけど、会って喋って生まれるもののほうが息が長くて、奥深さを感じる。自然と〈曲作ろうよ〉ってなったときが絶対にいちばんいいものが出来ると確信してる。まあ、アーロンと一緒にやったきっかけをあげるとすれば、高田馬場の居酒屋、KUSUDAMAです(笑)」

――はは。もっとも、そうした飲みの席では当然音楽の話もあったんですよね。

「もちろん。アーロンはジャズとヒップホップのシーンを往来してるし、俺もジャズ・ミュージシャンと数多くセッションを重ねているというとこで、凄い共感する部分があった。日本でもジャズとヒップホップのシーンが当たり前に混ざり合っていいと思う。ヒップホップのサンプリングの多くはジャズからとっているし、ジャズへの敬意もある。〈日本でもステージにおいてジャズ・バンドの前にラッパーが立っているのが普通となるくらい、その波が大きくなったらいいよね〉という話はしてました」