意識的に挑戦している

 また、〈狂い始めるタイムライン 衝突は回避〉と歌う“Good Luck”や、〈既読だけ〉とリフレインする“She's Gone”など、SNSをモチーフとした表現が増えているのも印象的だ。「これまで俗っぽい言葉や、具体的な固有名詞など意識的に避けてきた」というSanoが、こうしたアプローチに挑戦しているのは、自身がリーダーを務めるLast Electroでの活動や、アイドル・グループであるRYUTistの楽曲を手掛けるなど、ここ数年で活動範囲がグッと広がったのも大きな要因だ。

 「自分はシンガーとしてずっとやってきたわけではないので、歌や歌詞にコンプレックスがあるんです。歌の表現力も乏しいし、使える言葉もそんなに多くないんじゃないかって。でも、そうやって自分の領域を自分で決めちゃうのも良くないなと思い、少しずつ広くしようと意識的に挑戦していますね。例えば“Ash Brown”は、大阪のファッション・ブランドのantiquaに提供した曲で、そういう特殊なコンセプトだったからこそ普段使わない言葉を入れたり、いつも重ねて録っているヴォーカル・トラックをシングルにしたりしている。ほんのちょっとした違いなのですが、僕にとってはとても大きなチャレンジなんですよね」。

 ヴォーカルをシングルで録る試みは、Shin Sakiuraとのコラボ曲“ほんとは”で初めてトライしたことが大きな経験となった。また最近は、弾き語りライヴを行うことも多く、スタジオではやったことのない歌い方もするため、それが今回のレコーディングにフィードバックされてもいるという。

 「今回、歌詞の分量がこれまででいちばん多いので、僕の作品の中ではもっともシンガー・ソングライターっぽいアルバムといえるかも知れない。今後どうなっていくかはわからないですけどね。基本的には少ない言葉とメロディーで成立させる作り方が好きなので。これ以上、歌詞が増えていくことはない気がします」。