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●世界平和を希求する画期的なアンセム集

 本来なら2020年は東京オリンピックが開催されるはずだったが、とりあえず2021年に延期となったのはご存知の通り。オリンピック開催時には様々な文化イベントも行われる予定だったが、それもどうなるか、今は見えない状況だ。

 山田和樹は東京混声合唱団音楽監督も勤めており、その東京混声合唱団、日本フィルハーモニー交響楽団などと共に『アンセム・プロジェクト Road to 2020』を展開してきた。第1弾のCDは2017年にリリースされ、各地でコンサートも行われてきた。アンセムとは〈その国の国歌、あるいはその国の愛唱歌〉の意味で、世界各国に受け継がれて来たそれらの歌、音楽を網羅しようという壮大なプロジェクトである。

 スタートの時に山田が掲げたコンセプトが、〈音楽は国を超える! 歴史を超える〉で、世界のすべての国の国歌をリサーチするなど、準備にも相当な時間をかけた。また、国歌はすべてその国の言葉で歌われるので、東京混声合唱団もそれらの国の言葉を学び、歌うという、とてつもなく努力の必要なプロジェクトであった。その結果として『山田和樹アンセム・プロジェクト 世界の国歌~歌う地球儀』と題されたCD7枚組が今回リリース(KING RECORDS)されることになった。山田は語る。

山田和樹,東京混声合唱団 『山田和樹アンセム・プロジェクト 世界の国歌』 キング(2020)

 「このプロジェクトの構想を始めた時は、もちろん2020年の東京オリンピックを意識してスタートした訳ですが、このコロナ禍の状況の中では、もっと長い道のりを意識しなければと思うようになりました。こんな状況の中でも、世界各地では国同士、地域同士の紛争が起こり、戦闘が続いています。それを考えると、世界の歌を集め、歌うことは、もっと長いスパンでの平和への道を考えることに繋がるのではないか。歌を通して人と人とが結びつく。その意味を考えて欲しいし、だからこそこのプロジェクトは長く続けていかなければならないと思っています」

 今回の7枚組CDは地球儀型ボックス仕様でリリースされるのだが、そのアイディアは「宇宙から俯瞰した地球の音楽を描きたい」という山田の想いから生まれている。全7枚のCDのそれぞれは〈島々の歌〉〈ヨーロッパ大陸〉などと題されているが、なかには〈大航海時代〉〈シルクロード〉というCDもある。

 「出来るだけ音楽として、エンターテインメントとしてこのCDを楽しんで頂きたい、あまりアカデミックな感じにならない、地球を旅するような感覚で聴いてほしいという想いから、こうした構成をとりました」

 と山田。編曲総監督として参加した信長貴富によるオリジナル・アンセム・メドレーも各巻の冒頭に置かれていて、旅へ誘ってくれる。7枚組には特典DVDも付き、そこにはこのプロジェクトの立ち上げからの様々な場面が収録されている。壮大なプロジェクトの全貌をいま、平和への願いと共に受け取ろう。

 


山田和樹 (やまだ・かずき)
東京藝術大学指揮科で小林研一郎・松尾葉子の両氏に師事。第51回(2009年)ブザンソン国際指揮者コンクールで優勝。ほどなくBBC交響楽団を指揮してヨーロッパ・デビュー。同年、ミシェル・プラッソンの代役でパリ管弦楽団を指揮するなど、破竹の勢いで活動の場を広げている。ベルリン在住。