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より自由度が高く

Little Parade 『止まらない風ぐるま』 ビクター(2021)

 ファースト・ミニ・アルバム『止まらない風ぐるま』は、バンド解散以降の2年間で培われた表現、そして、Little Paradeとしての方向性を明確に示した作品だ。まず印象に残るのは、バンド・サウンドから電子音楽、ポエトリー・リーディングなど多岐に渡ったアレンジとスタイル。Aqua Timezで独特のミクスチャー・サウンドを志向してきた太志の音楽性は、このプロジェクトでさらなる発展を遂げているようだ。

 「全体のバランスを考えながら、一曲一曲に向き合って聴いてもらえるように、歌詞とメロディーが必要としている音をアレンジャーと相談しながら作っていきました。かなり自由度が高い作品になったと思うし、自分としては、Aqua Timez時代の良かった部分、良くなかったところも全部連れてきた感じもあって。メロディーの節回しもそうですけど、一長一短あるのが個性だし、それを失くそうと思っても無理なので、まずはやりたいことをやって、後から考えればいいかなと。声も変えられないですからね。それを武器にするためにはもっと練習して磨くしかない。そこは新人に戻ったような気分でいます」。

 1曲目の“on the BLEACHers”は、〈千年の昔 約束をしたんだきっと この小さな木の下で 待ち合わせようって〉というラインが心に響くロック・チューン。ドラマティックに展開するサウンドを手掛けているのは、元Aqua Timezのギタリストである長谷川大介。同じく元メンバーのOKP-STAR(ベース)も参加するなど、歌詞と同じくAqua TimezとLittle Paradeを繋ぐ楽曲となっている。

 「バンド時代からワンコーラスだけ出来ていて、その続きを書いて完成させました。Aqua Timezとして世に出せなかった曲だから、大ちゃんにアレンジをお願いして。OKP-STARを起用したのは大ちゃんなんですけど、やっぱりAqua Timezらしい曲になりましたね。楽器陣も心強かったし、〈1曲目に相応しい〉と本心から思って。やっぱり好きなんですよね、こういう曲が」。

 続く“ユニコーンのツノ”は、ウッド・ベースとストリングスの響きを活かしたミディアム・ナンバー。Little Paradeのアイコンでもある〈ユニコーンのツノ〉をモチーフにした歌詞は、バンド時代から現在に至る、太志自身の心境の変化とも重なっているようだ。

 「バンドのときは、尖った状態で前に進もうとしていた自分がいて。それだけ焦ってもいたんですけど、結局、ツノだけでは崩せない壁があったんですよね。そのことを認められるようになったし、まさに自分のことを歌っている曲だと思います」。

 今は亡き父親との思い出をポエトリー・リーディングで綴った“ウイスキー”も強く心に残る。聴けば誰もが自分の親のことを思い出すと思うが、きわめて個人的な思い出を普遍的な〈歌〉に導いたこの曲は、40代になった太志の表現力の深みを実証していると言えるだろう。

 「父親は僕が高3のときに亡くなったんですが、今も一緒に生きているような気持ちがあって。父との思い出は絶対に忘れないし、それを曲として残しておきたかったんですよね。レコーディングのときは泣いてしまわないように、少し気持ちをギュッと持ちながら、感情を引き留めるように歌いました」。

 ミニ・アルバムのラストを飾る“寂恋”は、叙情的な旋律と共にかつての恋愛を描いたバラード。ノスタルジックな情景と切ない恋心が溶け合うこの曲は、Little Paradeの本質に繋がっている。

 「季節、気温、匂いなんかで、昔の恋愛を思い出すことがあって。地球の回転によって思い出が蘇るようにリマインドされているというか。それはすごく愛おしいし、曲にしておきたいんですよね。年齢を重ねることでやっと昔の思い出を歌えるようになったし、表現も成熟してきたんじゃないかなと。若い時期の必死だった自分の記憶を大事にしたいし、いつまでもラヴソングを歌って許されるのがミュージシャンだと思うので」。

 「頭で考えてもいいことはない。すべては変化し続けるし、それを一つ一つ形にしていきたい」と太志は語る。〈歌〉の力が改めて見直される現在の音楽シーンにおいて、その表現を視覚的な面も含めて追求するLittle Parade。太志は新たなキャリアを理想的な形でスタートさせたのだと思う。