Page 2 / 6 1ページ目から読む

1. The Weather Station “Parking Lot”
Song Of The Week

天野「〈SOTW〉はウェザー・ステーションの“Parking Lot”です。ちょうど本日2月4日にリリースされた5作目『Ignorance』からのシングルですね。『Ignorance』はPitchforkが〈Best New Music〉に選ぶなど、すでに評判を呼んでいます」

田中「Mikikiに初登場のウェザー・ステーションは、タマラ・リンデマン(Tamara Lindeman)によるバンドです。リンデマンはカナダのトロント出身、84年生まれの現在36歳。タマラ・ホープ(Tamara Hope)という名前で俳優をしていて、数々の映画やTVシリーズに出演しています。また、ミュージシャンとしては他にブルース・ペニンスーラ(Bruce Peninsula)にクワイアとして参加するなど、トロント・インディ・シーンで活躍する才能です」

天野「ウェザー・ステーションの音楽性はフォーク/フォーク・ロックと言っていいものですが、『Ignorance』ではかなり拡張されたものになりました。サックスなどのホーンズとストリングスを繊細な手つきで敷いた、とてもゴージャスで、けれども穏やかな響きに満たされているんです。日本でAORと呼ばれるウェスト・コースト・ロックやスティーリー・ダン、全盛期のフリートウッド・マックなどを思い起こさせるマチュアな音楽に近づいていて、まずこのサウンドに感動しました。モトリックな推進力のあるビートも力強いです。“Parking Lot”を含めて、すでに4曲のシングルがリリースされていましたが、どれもプロダクションは一貫していますね。なかでも、この“Parking Lot”は本当に素晴らしいと思いました」

田中「ウェザー・ステーションというかリンデマンは、彼女が書くリリックも魅力的ですよね。〈クラブの外、駐車場で待っていた/鳥が数羽、羽ばたいて屋上に降りるのを見た〉というファースト・ラインは、まるで小説の書き出しのようです。情景と心情を見事に描写するストーリーテラーですよね」

天野「そうなんですよ。“Parking Lot”の歌詞は、空を飛ぶ鳥を見てリンデマンが不意に悲しみや不安に襲われ、〈今夜、私は歌わなくてもいい?〉と吐露するものです。〈この剥離を表現できるほどの詩人ではない〉というラインが印象的で、彼女の実体験にもとづいているのではないかと思いました。Pitchforkのインタビューによると、『Ignorance』は〈気候変動がもたらす精神的な負荷や不安〉というアクチュアルな問題をテーマにしているようで、“Parking Lot”の歌詞も〈リンデマン=人間〉と〈鳥=自然環境〉という対比になっているんじゃないかな、と思いました。いずれにせよ、『Ignorance』は傑作だと思います。ぜひ聴いてください」