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プロジェクトから〈バンド〉へ

それから5年という決して短くはないインターバルを経てリリースされた本作『Ongoing Dispute』。苦しい時期を経たからこそ、バンドとしての新たなクリエイティヴィティーを獲得することができ、本作に辿り着けたと、彼らはリリース元であるレーベル〈PNKSLM〉のサイトThe Daily Starに掲載されたインタビューで語っている。

前作のように英米のレーベルからのサポートや、制作に際しての十分な資金があるわけではなかった。具体的なリリースの予定も決まっておらず、そうした先の見えない状況に対するフラストレーションがバンド内にもあったという。しかし、そのようななかでも、曲が出来上がることで得られる新たな興奮が、制作に取り組むうえでの何よりのモチヴェーションとなっていたそうだ。

『Ongoing Dispute』収録曲“Friends On Ice”
 

アルバムの制作は前作までとはだいぶ異なるプロセスで進められたようで、フロントマンのミケルは〈集団として取り組むことを学んだ〉と振り返る。これまでは主にミケルが楽曲制作の中心を担っていたが、本作では初めてメンバー4人全員でアイデアを出し合い、議論を重ね、曲を作り上げていったそうだ。ゆえに本作は、ミケルを中心とした〈プロジェクト〉としての意味合いが強かったユングが、初めて明確に〈バンド〉というひとつの共同体として作り上げたアルバムとも言える。何年も同じメンバーでプレイしていると、いつの間にか独自のルールが生まれ、ともすればそれが習慣となりバンド自体を不自由にしてしまうこともあるだろう。だが、今回はそうした関係性に変化が起こることで、バンドは新たな領域を獲得した。

 

Photi by Daniel Hjorth
 

瑞々しいエネルギーに溢れ、煌めきを放っている

バンドとしての有機的な関係の構築は、個々のメンバーの趣向(80年代ポップスからメタルまで)をより民主的に作品に反映することにも貢献したそうで、彼らの特徴であるエモーショナルでメロディックなサウンドは、さらなるスケールアップを遂げている。アイスエイジ直系のパンク・スピリッツは変わらずも、たとえばフォンテインズD.C.シェイムら昨今のUKシーンを席巻するポスト・パンク勢(という安直な言葉で一括りにするのも乱暴ではあるのだが)との共鳴を感じさせる。

加えて、グランジ+90~2000年代パンク的な愛すべきダサさを自分たちの音楽に落とし込んでいるところに、このバンド特有のセンスを感じることができるし、それはPNKSLMのレーベル・メイトとなったシットキッド(Shitkid)に通じるものなのかもしれない。また、楽曲によっては初期レディオヘッドをも彷彿とさせるアンセミックさを携えており、さらなるポテンシャルも垣間見える。

〈まるで新しいバンドを結成したようだった〉というミケルの言葉通り、本作はバンドにとって2度目のデビュー・アルバムとも言うべき作品だ。瑞々しいエネルギーに溢れ、煌めきを放っている。

『Ongoing Dispute』収録曲“Above Water”