Page 2 / 2 1ページ目から読む

トレンドの変化を楽しみ、時代の荒波を乗りこなしたシンガー

ひとりのアーティストとしてのバニー・ウェイラーの世界観が花開くのは、ウェイラーズ脱退以降のことだ。アイランドからリリースしたソロ・デビュー・アルバム『Blackheart Man』や『Protest』(77年)、自身のレーベルであるソロモニックから発表した『Struggle』(79年)は、前述したようにルーツ・レゲエ黄金時代を代表する傑作だ。ずっしりとヘヴィーかつディープだが、しなやかで軽やか。ファンクやソウルの深い味わいもある。シンガーとしては決して絶唱するタイプではないが、穏やかな歌唱のなかに静かな闘志を秘めた、ルーツ・レゲエの美学を感じさせる歌声である。

78年のシングル“Rockers”。レゲエ・ムーヴィーのクラシック「ロッカーズ」(78年)の挿入歌として使用された
 

80年代に入ると、持ち前のファンクネスが炸裂。ルーツ・ラディックスのワンドロップ・リズムを従えて“Cool Runnings”(81年)や“Rule Dancehall”(87年)などのヒットを放つ。80年にはエレクトロ・ラップ調の“Electric Boogie”(のちにマーシャ・グリフィスのリメイク・ヴァージョンもヒット)をソロモニックからリリースしているほか、82年の『Hook Line & Sinker』ではディスコ・レゲエ路線も打ち出している。多様化するレゲエ・シーンに対応したしなやかなスタンスは、ボブ・マーリーやピーター・トッシュにはないものだった。

80年のシングル“Electric Boogie”
 

一方で、『Gumption』(90年)や『Dance Massive』(92年)などのダンスホール・アルバムもリリースしている。70年代のルーツ・レゲエ世代のなかにはダンスホール時代に乗り換えることができず、その名を忘れ去られていったアーティストも少なくなかったが、バニーの場合はむしろトレンドの変化を楽しみ、時代の荒波を軽やかに乗りこなしたともいえるだろう。

2017年にはダンスホール・シーンで活躍する女性シンガー、ラフィアンとの“Baddest”を発表するなど、近年でも断続的な活動を展開してきたが、冒頭でも触れたように入退院を繰り返していたという。

〈Jah B〉とも呼ばれたバニー・ウェイラー。聴き手のなかに渦巻く不安を鎮め、静かに鼓舞するあの特別な歌声をもう聴けないと思うと、本当に悲しい。

2017年のシングル“Baddest”