気持ちをさらに強く表現したい

 〈愛の花びらが散る前に 星たちと今歌おう〉というラインが響くUnownの“地球奪還作戦”も本作のメッセージ性を象徴する楽曲の一つ。煌びやかなサウンドとポップに振り切ったメロディーは明らかにiCE KiDの新機軸だ。

 「星を眺めてるときに、〈地球も世の中も誰かに支配されている〉というイメージが湧いてきて。そんなのファンタジーすぎるやろ!って言われそうですけど(笑)、何かに支配されてしんどい思いをしている人もいるし、そういう人たちに向けた応援ソングを作りたかったんですよね。対抗して争ったら戦争になっちゃうので、愛を持って、明るくポップに表現したくて。こういうポップなサウンドも好きなんですよ、もともと。子どもの頃に母と姉が聴いてたw-inds.が音楽の入り口だったりするので」。

 武 & asmiを迎えて失った人への思いをリリカルに綴った“鳴らなくなった電話(2020ver.)”も心に残る。15年ほど前にスマッシュ・ヒットしたKAMEGA4RAの原曲をリミックスし、オリジナルのリリックを追加。大切な人とのかけがえのない時間に思いを馳せる、普遍的な力を持った楽曲になった。

 「原曲を作ったのは奈良のアーティストで、以前からすごく好きな曲だったんです。もともとは好きだった女の子に向けた曲なんですけど、参加してくれた武くんの周りに亡くなった友達がいて、そのことも曲の中に込めてます。〈今の時間を大切にしてほしい〉というメッセージが伝わるといいなと」。

 さらに、Def TechのSHENが参加した“Light it up”は、一期一会の出会いのなかで生まれたという楽曲。穏やかな日差しを感じさせるトラック、アコースティック・ギターの音色が混ざり合い、〈このLifeではmoneyより愛の花びら〉というフレーズが共鳴するこの曲は、この『星空少年』における大きな成果だと言っていい。

 「SHENさんのスタジオに初めて行った日、めっちゃ天気が良かったんですよ。サイレントの曲を聴きながら歩いてたんですけど、それがスタジオでSHENさんが弾いてたウクレレのコードとハマって。その場の雰囲気もすごく出てるし、奇跡的な曲だと思います。SHENさんも自然を愛している方だし、共通点がたくさんあったのもよかったですね」。

 今後について、 「自分の感情や気持ちをさらに強く音楽で表したいと思ってます。『星空少年』の制作のなかで、いろいろな演奏家の方と知り合うこともできて。打ち込みのビートメイクももちろん好きですけど、次はサックスやギターなど、生の音を軸にした曲を作りたいですね」と早くも次作のヴィジョンを描いているiCE KiD。ジャンルや流行を超え、人が生きるうえでもっとも大切なメッセージへと辿り着いた『星空少年』によって彼は、アーティストしての本質を(恐らく初めて)露わにしたと言っていいだろう。作風は大きく変化しつつも、「ルーツであるレゲエとはいまも繋がってます」と言い切る姿勢も、彼の楽曲の説得力に結びついている。

 「音楽をやりたいという気持ちに火が点いたのは、やっぱりジャマイカだったんです。レゲエという音楽もそうだし、ジャマイカの人たちもめっちゃ平和で。そのときに感じたことはすごく大きいし、自分がいまやろうとしていることも一緒だなと。17歳のときから、いまに繋がる道を歩いてたんだなって思いますね」。

『星空少年』に参加したアーティストの作品を一部紹介。
左から、kojikojiの2021年のEP『PEACHFUL』(FLOPICA)、空音の2020年作『TREASURE BOX』(スピードスター)、Yo-Seaの2019年作『7878』(BCDMG/bpm tokyo)