10. Wilted

聴覚空間をぼんやりと覆うクラックル・ノイズを破るかのように、往年のハリウッド映画音楽さながら甘くゴージャスなストリングスと軽やかなピアノのフレーズが押し寄せてくる。だがノイズは霧消することなく、基調として残り続ける。そんなノイズ越しに響く甘美な音楽に耳を傾けていると、それはとうの昔に失われてしまった楽園のBGMであるかのように感じられてくる。同じくクラックル・ノイズの使い手であるブリアルがレイヴの亡霊に憑かれているのだとすれば、yuma yamaguchiは楽園の亡霊に憑かれているのかもしれない。 *鈴木英之介

 

11. Circular Path

高音域のピアノ・フレーズによるミニマルな反復が中心の多重録音作品で、コラージュのような逆再生音が横切り、あるいはストリングスが寄り添うことで、まるで映画のように情景喚起的に響く。ミニマルだが本盤の他の楽曲で聴かれるスティーヴ・ライヒ的なストリングスの使用はなされておらず、むしろテクノのようなミニマルさというか、ハウス・ミュージックがキャリアの出発点にあるyuma yamaguchiのグルーヴィーな感性が、機械的なピアノの反復による装飾音として脱グルーヴ化を遂げたということのようにも思う。 *細田成嗣

 

12. 破く(feat. ラヌ)

軽やかで素早いタッチのピアノ・フレーズの反復にストリングスとコントラバスが色を添えていく。正確な運指でスピーディーに弾かれるピアノの粒立つ響きが印象的だ。中盤でコーラスが挿入されると、yuma yamaguchiがSNSを通じて見つけたという19歳のゲスト・ヴォーカリスト、ラヌによる歌が披露される。特徴的なウィスパー・ヴォイスは歌詞を言葉というよりも音の響きとして聴かせ、日本語をまるで異言語のように変貌させながら声のきめ細やかな表情を前面に出し、だがしかし、急速に伴奏が消えゆくその瞬間に〈……その姿は〉と息を漏らしつつ明瞭に言葉が出現する展開が鳥肌ものだった。 *細田成嗣

ラヌ

 

13. Beautiful Wasted Melody(feat. ラブリーサマーちゃん)

アルバムのラストを飾る曲でメインを務めるのは、ラブリーサマーちゃん。この起用は彼女自身の新たな表情を引き出すことにも成功しており、彼女もハスキーで色気のあるヴォーカルで応えている。そして、ストーリーの大団円を演出するジャジーで賑やかなホーン・セクションで幕を閉じていくという展開も完璧。これだけ様々な楽曲を揃えていながらアルバム尺は40分強と、さらりと聴けてしまうのも魅力で、入念に練られた構成からは〈アーティストではない〉としながらも強烈なプロ意識を感じとることができる。 *藤堂てるいえ

ラブリーサマーちゃん