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冷静と情熱のあいだにある“Always”

――では、2月以降に連続リリースしているシングル各曲について訊かせてください。今年の2月にリリースした“Always”はドリーム・ポップ/シューゲイズ的な音作りを基調としつつ、そこにアコギのストロークを重ねているのが印象的だったのですが、この楽曲はどんなアイデアから生まれたのですか?

I Saw You Yesterday 『Always』 ISYY/SPACE SHOWER(2021)

ムラカミ「“Always”は昨年の自粛期間明けに作った曲で、ギターもそのときの気分がストレートに表れてます。というのも、僕らは2019年の11月にアルバム『Calm Days』を出したんですけど、あのアルバムで僕は〈穏やかな部屋でひっそりと過ごしているけど、外界ではめちゃくちゃなことが起きてる〉みたいなイメージを個人的に落とし込んでたんです。そうしたら、その抽象的なイメージがコロナ禍で一気にリアルになってしまって。今回のギターはそこに引っ張られたところがあるんですけど、シモダはまた違うんだよね?」

シモダ「そうだね。僕の場合はイメージから作ることってあまりなくて、どちらかというと、曲作りはパズルとか数学みたいな感覚なんです。“Always”が16ビートのゆったりした曲になったのは、自粛期間中にみんなとスタジオに入れなかったことの影響も大きくて。スタジオで音を合わせていると、みんなで演奏しているときの気持ちよさについ流されがちなんですけど、この曲に関してはいつも以上に俯瞰的というか、フラットな気持ちで臨めた感じがする」

――ムラカミさんがエモーショナルなギターを弾く一方で、シモダさんはあくまでも冷静に曲を作ったと。

ムラカミ「まさにその通りで、曲作りにおいて彼は常に冷静沈着なんですけど、僕はつい熱くなっちゃうタイプなんです。実際、“Always”は最初から最後までそんなにテンションが変わらない曲なんですけど、そのなかで僕のギターだけがアクションを起こしてるんですよね(笑)。でも、そこがISYYのおもしろいところだなと思ってて」

シモダ「僕もそう思う。ISYYの曲作りって、要は僕がスケッチを用意して、そこにみんなが好きな色を塗っていくような感じなんです。僕はカイくんみたいにエモーショナルな表現ができないので、そこに関しては彼に任せていて。ただ、みんなで演奏していると、仮に下書きが良くなかったとしても、なんとなく良い感じに思えてきちゃうので、自分はそこに惑わされないようにしなきゃと思ってて」

――グランジ/オルタナを共通項としながらも、ミュージシャンとしてのタイプはまったく違うと。

シモダ「僕がグランジ/オルタナで一番好きなバンドはスマッシング・パンプキンズなんです。スマパンの曲ってめちゃくちゃ綿密なプロダクションで作られていて、聴くたびに発見があるんですよね。そこに影響を受けてるっていうのも、自分の場合は大きいのかもしれない」

――なるほど。いっぽうのムラカミさんが最も影響を受けたバンドといえば?

ムラカミ「やっぱりニルヴァーナかな。『In Utero』(93年)を初めて再生した時のことをよく覚えてて、12歳の僕はびっくりしすぎて停止ボタンを押しちゃったんですよ。〈この音楽は危ない!〉って(笑)。いま思えばそれがロックとの出会いだったし、特に『In Utero』はノイズがすごいじゃないですか。あれが当時10代のモヤモヤした心にはものすごく響いたし、いまもそれを求めてるところがあるんです。それこそノイズってコントロールできる部分とできない部分があって、そういう原始的なところが言葉で言い表せないような感情表現にも結びついてるんじゃないかなって」

シモダ「ノイズの話で今ふと思ったんですけど、マイ・ブラッディ・バレンタインのケヴィン・シールズは、どちらかと言うとビリー・コーガン寄りな気がするんです(笑)。大学の頃に読んだ『Loveless』(91年)の制作に関する本によると、あのアルバムのノイズは本当に計算しつくされたものだし、それこそケヴィン・シールズは完璧主義者ですよね。で、たぶん自分はそういう人にすごく影響されてるんだと思います」

――スマパンのビリー・コーガンが作る音楽と、スティーヴ・アルビニが録音した『In Utero』って、対極と言ってもいいですよね。で、そんな相反する感性がひとつのバンドに共存してると。

ムラカミ「そうなんです。完璧に作りたい人と、それを壊したい人が同じバンドにいるっていう(笑)」

 

歪んだギターのかっこよさを示した“Drown”

――それこそ3月にリリースされた“Drown”はノイジーなグランジ・サウンドですよね。ふたりのルーツにあるものが素直に表現された楽曲のように聴こえます。

I Saw You Yesterday 『Drown』 ISYY/SPACE SHOWER(2021)

ムラカミ「その通りだと思います。たまにはやってもいいかなと(笑)」

シモダ「これはもう、勢いでやっちゃった感じですね。自粛期間中にダイナソーJr.を聴き直していたのもあって、今またストレートにやってみるのもいいかなと」

ムラカミ「逆に言うと、これまではこういう曲をやらないようにしてたんですけど、今これをやったらどうなるのかなっていう興味もあった。まあ、その結果として何かしら新しい発見があったわけでもないんですけど、作って良かったなと思ってます。今ギター・ロックって世界的にはあまり存在感がないじゃないですか。そうしたなかで〈歪んだギターのかっこよさをあらためて示したい〉という気持ちも、多分どこかにあったんじゃないかな」

シモダ「そうだね。ただ、ヴォーカルに関してはちょっと悩んだかな。というのも、この曲はギターがマグロだとしたら、ヴォーカルはシャリなんですよね。そこであんまりストレートに歌うとバランスが取れなくなるので、若干そこは意識してました」

――なるほど。ちなみにヴォーカリストとしてはどう在りたいと考えていますか。それこそビリー・コーガンのヴォーカルはシャリに徹するタイプではないと思うんですが。

シモダ「確かに(笑)」

ムラカミ「ヴォーカルの立ち位置に関しては、ライドとかマイブラの方がイメージに近いんじゃない? あるいはヨ・ラ・テンゴとか」

シモダ「うんうん。発想としてはそっちの方が近いですね」