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爆発するギターもアラブ歌謡の猥雑さも〈サイケデリック〉へ統合

コルトンがプロデュースしたアルバム『Afrique Victime』では、冒頭の“Chismten”からモクターが爆発的なギター・プレイを聴かせる。リヴァーブの効いたストラトキャスターの音色はもうひとりの左利きのギタリストを連想させたりもする。サーフ・ギターの帝王、ディック・デイルだ。

ただし、モクターのバンドが演っているのはギタリストだけが好きに弾きまくり、昇天するような音楽ではない。モクターのギターは執拗なまでの反復性を持ち、強靭なリズム・セクションと絡み合いながら、聴き手を高揚させる。6/8拍子が多いアフロ・ポリリズムにタイトな現代性を与えるこのバンドの演奏力は凄い。コルトンがかつて率いたレス・ライノセロスは、アラビックな旋律を用いたメタル・ジャズ的な音楽をやっていたが、そのエッセンスも明らかに織り込まれている。

『Afrique Victime』収録曲“Chismiten”

2曲目の“Taliat”ではヴォーカルが前面に出て、アラブ歌謡的な猥雑さを振りまくし、3曲目の“Ya Habibti”はアコースティック・ギターを使って、それをアンプラグド的な方向で聴かせる。このあたりはモクターの初期の作品にも見られる展開だ。ただし、以前はエレクトリック・ギターによるロック的な曲とアラブ歌謡的な伝統性を感じさせる曲がはっきり分かれていたのに対して、このアルバムではすべてがひとつのバンド・サウンドの中に統合された感がある。〈サイケデリック〉の一言ですべてが説明できてしまいそうだ。

『Afrique Victime』収録曲“Afrique Victime”

 

エムドゥ・モクターは〈砂漠のサイケデリック・ロック〉

そう、ティナリウェンが〈砂漠のブルース〉だったら、エムドゥ・モクターは〈砂漠のサイケデリック・ロック〉かもしれない。モクターが欧米のロックの影響をどのくらい受けているのかは分からない。2019年のデトロイト録音のライブ・アルバム『Mdou Moctar: Blue Stage Session』ではジミヘンやニール・ヤング的なロック・フレーズを弾いていたりもするから、基本は押さえているのだろうが、新作に充満する強烈なサイケデリック感はトゥアレグ族の住む砂漠の日常に由来するようにも思われる。その乾いたサイケデリアは極めて自然体で、身を任せているうちに、意識をすうっと持って行かれてしまう。現在はロック・フェスなどが開催困難な状況だが、世界中でそれが再開されたら、これは強力なアクトになるだろうと確信できる。

2019年作『Mdou Moctar: Blue Stage Session』収録曲“Tarha”。リリースはジャック・ホワイトのレーベル、サード・マンから

 


*2021年5月21日追記
記事の訂正およびお詫び
本記事の初出時、エムドゥ・モクターの出身地とトゥアレグ族についての記述が誤っておりました。謹んでお詫びし、訂正させていただきます。 *Mikiki編集部

 


RELEASE INFORMATION

MDOU MOCTAR 『Afrique Victime』 Matador/BEAT(2021)

リリース日:2021年5月21日(金)

■国内盤CD
品番:OLE1614CDJP
価格:2,420円(税込)
ボーナス・トラック追加収録/解説書・歌詞対訳封入

■輸入盤CD
品番:OLE1614CD
価格:2,519円(税込)

■限定盤LP(パープル・ヴァイナル)
品番:OLE1614LPE
価格:2,849円(税込)

■輸入盤LP
品番:OLE1614LP
価格:2,849円(税込)

TRACKLIST
1. Chismiten
2. Taliat
3. Ya Habibti
4. Tala Tannam
5. Untitled
6. Asdikte Akal
7. Layla
8. Afrique Victime
9. Bismilahi Atagah
+日本盤ボーナス・トラック