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TAKU INOUE

ドラゴンボールじゃん!

――今回の作品に限らず、イノタクさんはフライローの作品ってチェックされてましたか?

「僕は昔からワープ・レコーズがすごく好きなんです。なので、その流れで聴いてました。すごい人が出てきたな、って。プレフューズ73の次ぐらいにガツンと来た感じで。最初に聴いたのは『Los Angeles』(2008年)だと思います。それから『Cosmogramma』(2010年)を聴いて。

その後、ライブに行ったんです。2011年の〈SonarSound(Tokyo)〉で、新木場STUDIO COASTに観に行ったら、『ドラゴンボール』の道着を着て出てきて……。それで出オチかと思いきや、ちょいちょい〈カーメーハーメー波ー!〉って言うんですよ(笑)。1回2回じゃなくて結構言うんです。おもしれぇ人だなと思ったのと同時に、おたくなんだなと」

Photo by Masanori Naruse
〈SonarSound Tokyo 2011〉でのフライング・ロータス、サンダーキャット、ドリアン・コンセプト

――フライローはいろんなインタビューで繰り返し「ドラゴンボール」の素晴らしさを語っていますね。

「『YASUKE -ヤスケ-』の光線と光線がぶつかってグワーってなる演出とかも、これもう(アニメ版の)『ドラゴンボール』じゃんって。SEの〈ほわんほわんほわん……〉っていうのも。そういった演出にどこまで絡んでいるかはわからないんですけど、フライング・ロータスが道着を着た姿が目に浮かんでちょっと笑っちゃうところがありましたね。

僕はフライング・ロータスと同い年なんです。だから、世代だな、って。彼は海外だから、『ドラゴンボール』を観たのは僕より少し遅かったかもしれないけれど」

――彼の作品でフェイヴァリットは?

「僕は最近の作品のほうが好きです。『You’re Dead!』(2014年)以降ですね。初期はワープ感が強かったのが、生楽器がどんどん増えて、土臭いジャズの要素が増えてきた。その次の『Flamagra』(2019年)も、割とポップスしている曲もたくさんあって、聴いちゃいますね」

2019年作『Flamagra』収録曲“More (Feat. Anderson .Paak)”

――そのあたりの作品になると、ジャケットや曲名、サンプルネタなんかに、日本のポップ・カルチャーからの影響が如実にでてきます。

「Red Bull(Music Academy)がつくった『Diggin’ In The Carts』(2014年)というドキュメンタリーがありまして、実は自分も出ていたんですけど、あのなかでもフライング・ロータスはずっとゲーム・ミュージックが好き、かっこいい、って話をしていましたね」

「Diggin’ In The Carts」エピソード1。Red Bull Music Academyによる2014年のドキュメンタリー・シリーズで、ゲーム音楽の影響について探ったもの。TAKU INOUEはエピソード6に出演

――あるインタビューで、『YASUKE』のサウンドトラックに影響を与えた作品をフライング・ロータスが紹介しているんですが、主に『YASUKE』に直接通じるようなシンセサイザー系のもの、ジャン=ミッシェル・ジャールとかヴァンゲリス、冨田勲が並ぶなかで、これは外せないよねみたいな顔をしながら菅野よう子が手掛けた「カウボーイ・ビバップ」(98年)のサントラも……。

「でしょうね(笑)。ただ、もっと『カウボーイ・ビバップ』っぽくなるのかと思ったんです。ジャジーなネタをふんだんに入れてくるのかと。そうではなかったので、自分なりに咀嚼して、次のステージに行こうとしているのかなと」

 

音響にまで行き届いた「YASUKE -ヤスケ-」の音楽

――彼の作品にシンパシーを覚えるポイントってありますか?

「『You’re Dead!』あたりから、フリー・ジャズじゃないですけど、多分セッションのなかから生まれてきたんだろうなっていう、グリッドを無視してドラムがどかどか鳴るようなシーンとか……ああいうところがすごく好きで。自分の作品のなかでもジャズ・ドラムのサンプルをよくつかったりするんです。あのへんの、グリッドから外れた部分の魅力とか。

2014年作『You’re Dead!』収録曲“Cold Dead”

あと、昔からレイドバックした揺れたビートはフライング・ロータスが得意としてきたし、ああいった心地よい揺れを自分も意識しているし、通じるところはあるのかもしれないです」

――その点でいうと、今回の作品では大胆なヨレ感みたいなものはあんまりないですよね。

「そうですね。でも、ハイブリッド感はいつものフライング・ロータスらしいところがあって。太鼓とトラップ・ビートとか、うまく混ぜ込んであるのがさすがです。

劇中の劇伴の使われ方も気持ちよくて、バトル・シーンになるとビートが強く出てきて、それ以外のところではふわーっとしたサウンドになって、メリハリが効いている。『ドラゴンボール』っぽいSEもそうなんですけど、音響監督的な部分には関わっていたのかな」

――場面ごとのメリハリという話だと、あるインタビューのなかで、どういうふうにサウンドをつくっていったかを語っていて。映像を見ながら、想像上のビートにあわせてタップ・テンポしてBPMを測るんだと言っていて。

「なるほど。スピード感とかそういうところから始めているんですね。やっぱり、劇伴作家的に仕事を進めていったと」

フライング・ロータスが「YASUKE -ヤスケ-」の音楽制作について語っている「Fun With Dumb Ep. 131」