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ファンタジックなものって、裏を返すとリアル

――新しいEP『天使のまねごと』には、前作までに比べて80年代ポップスへの憧れが屈託のない形で出ているように感じました。

「『ゆらめき』の後に出すなら、あれよりももっと軽い質感のものにしたかったんです。『ゆらめき』にも含まれていたキラキラした成分を抽出して、それを前面に出してみたいという思いがありましたね」

2020年作『ゆらめき』収録曲“ハートのクッキー”
 

――〈『ゆらめき』のキラキラした面が好意的に受け止められているから、今度はそれをもっと打ち出してみよう〉みたいな気持ちもあったんでしょうか?

「むしろ、逆かもしれないです。サプライズじゃないけど、すでに『ゆらめき』を聴いてくれている人に〈お、今回はこう来たか〉と思ってもらえるようなものを出したかったし、自分自身もそういうものを求めていました」

――リスナーは、カワサキさんの狙いどおりの反応をしているんじゃないですかね。僕も〈あれ、こんなに明るかったっけ……!?〉とびっくりしました(笑)。音楽的な面ではどんな青写真を描いていましたか?

「〈フィル・コリンズ~ピーター・ガブリエル+日本のアイドル歌謡〉みたいなイメージでした。それらって普通は交わらないような要素だと思うんですけど、僕はもともとぜんぶ好きだったし、〈並列で聴けるもの〉という感覚をそれらに対して持っていたので、混ぜてみたらほかにない、おもしろいものになるんじゃないかなと思っていました」

――カワサキさんの視点から見て、フィル・コリンズやピーター・ガブリエルと日本のアイドル歌謡に共通する要素って何だと思いますか?

「どれも、めちゃくちゃリアルなものだなと思えるんですよね」

――それはおもしろい感想ですね。特にアイドル歌謡とかって軽さやまがい物感から〈プラスティック〉だとか形容されがちじゃないですか?

「僕は昔から〈ファンタジックなものって、裏を返すとリアルなんじゃないか〉と思っていたんです。2、3年前にディズニーランドに行ったとき、あまりない出来事を経験できて。あるアトラクションが乗っている途中に、トラブルで止まっちゃったんです。それで戸惑っていたら、係員の人に裏の通用口に案内されて、そこからアトラクションの外に出されたんですね。そのときに何というか〈魔法が切れた〉ような感覚になって、リアルさを感じたんですよね。

今回のEPに関しても、その体験が頭の片隅にあったんです。魔法が切れてしまうことって、普段の生活においても結構あることだなと思うんです。わかりやすいところで言うと、失恋とかもそうじゃないですか。

僕の歌詞はよく〈ファンタジックだね〉とか〈ドリーミーな感覚が流れているね〉とか言われるんですけど、実は自分のなかでは〈まったくの空想の世界を描こう〉という感覚はあまりなくて。むしろ、自分にとってはリアリティーのあるものとして、そういうモチーフを歌っていた。なので今回はそのギャップを逆手に取って、あえてファンタジックな要素を前面に出してみたら、もともとあったリアルな部分がかえって強く響くんじゃないかと思ったんです」

 

自分のなかの子供っぽさが消えぬように

――ここからは『天使のまねごと』の収録曲について1曲ずつ訊いていきたいと思います。まず1曲目の“わたしは天使”。これはEPの5曲で、いちばんアイドル・ポップっぽいなと感じました。

『天使のまねごと』収録曲“わたしは天使”
 

「僕、松田聖子がめちゃくちゃ好きで、もはや〈なりたい〉くらいなんです(笑)。松田聖子の歌い方を自分なりに研究・解釈して、〈僕ができるもっともキュートな歌い方〉を実践しました」

――カワサキケイから見た松田聖子の魅力は?

「彼女は〈自分の魅力をよくわかっている〉んですよね。“わたしは天使”の主人公は、自分がどう見られているかというのをわかっている人なんですけど、その感じは松田聖子に通じていると思います」

――“わたしは天使”の歌詞に出てくる女の子は、めちゃくちゃ自分に自信がある人ですよね。無敵感がある。

「僕自身も昔からそういう人に憧れていたんですよね。そういう強さみたいなものを僕もほしいなと思って作った感じはあります」

“わたしは天使”のライブ映像
 

――カワサキさんがお好きな80年代のポップスの世界では、90年代とかに比べて〈男性が女性っぽい装いをして歌う〉といったことが、許容されていたと思うんです。そういう〈多様なジェンダー表現が受け入れられている〉面も、カワサキさんが80年代の音楽に魅力を感じてきたポイントの一つかなと思いました。

「それはあると思います。僕も〈それぞれが好きな格好で好きなことをやればいい〉と思うタイプなので」

――では2曲目の“おわらない”。この曲は、ニューエイジやアンビエントの要素が入ったポップス~ロックという雰囲気があり、さっき名前をあげていたピーター・ガブリエルっぽい印象を受けました。

『天使のまねごと』収録曲“おわらない”
 

「とっかかりはピーター・ガブリエルで、それこそベースは『So』(86年)の感じを意識したり。そのうえで、〈もうちょっとキラキラさせたいな〉と思ってヒューマン・リーグの要素をプラスした。メインで鳴っているキラキラしたシンセやビートの感じはヒューマン・リーグを参考にしましたね」

――〈おわらない〉という言葉に込めた真意はどんなものなんでしょう?

「まぁ本当は終わってるんですよ。〈終わらない〉というか、(終わったけど)〈続けていく〉という意味合いのほうが強いかな」

――カワサキケイという音楽家の決意表明のようにも捉えられるなと思いました。一度は現実を見せつけられたけど、それでも自分は夢を見続けることを選ぶんだ、という。

「そういうふうに聴こえるだろうな、とも思いました(笑)。実際、僕のなかでも、その面はかなりあると思います。夢を見続けるというか。歳を重ねても、自分のなかに子供らしさみたいなのが残るじゃないですか。その感じを消したくないというか、消したらかわいそうだなっていうか。そういう意味での、夢を見続ける、かな」