菅原慎一と作り上げた歌とギターのアルバム

――そして、THE TREESの新作『Reading Flowers』を菅原さんがプロデュースしました。

有馬「バンドにとってはじめてのまとまった作品なので、4人だけじゃなくて、THE TREESの魅力を外から見てくれる方と一緒に作ったほうが、よりクォリティーを上げられるなと考えました。そこで、自分たちのめざす世界を一緒に作ってくれるのは誰かなと考えたとき、それは菅原さんだろう、となったんです」

『Reading Flowers』収録曲“Marron”

――菅原さんが彼らをプロデュースするにあたって、意識していたことは?

菅原「曲の構成だったりリズムの合わせ方だったりハーモニーの感じだったりを整えること。もとから持っているものを伝えるためのいちばんの近道はどこだろう、効果的なことはなんだろうと考えながら臨みました。さっき話したようにバンド特有の音楽性や魅力はすでに持っているので、それを人に聴いてもらうための交通整理をしたんです」

荏原「ギターの音作りなどは、ギタリスト目線ですごく助けになってくれました」

有馬「シャムキャッツの『Friends Again』(2017年)のような、あくまで歌がメインにあり、それをギターで装飾していくようなアプローチを今回はやりたかったんです」

菅原「今作のギターは俺の音に似ていると言われると思うんですけど(笑)、クリーン・トーンのギター2本を重ねつつ、リズムは8ビートで、そこにリヴァーブをかけて……というサウンドって簡単なようで実はうまく作るのが難しいんです。だから、細かなEQの調整とか音の配置とかを時間をかけて自分なりに整理しました」

――『Friends Again』のほかにギター・サウンドの面でリファレンスとなったものはありますか?

有馬「そうですね……リアル・エステイトとか。2本のギターがアルペジオ主体で絡み合っているバンドは念頭にありました」

――アルペジオのループ感は、THE TREESの音楽に独特のサイケデリアを生み出していますよね。

有馬「サイケな音楽にしたいという意識はあまりないんですけど、60年代のサイケや、それらに影響を受けたマッドチェスターのバンド――ストーン・ローゼズやシャーラタンズも好きですね。同じものを反復していて、それが多幸感を喚起していく感じがかっこいいなと思います」

 

想いを伝える花

――今作の〈Reading Flowers〉というタイトルは花言葉を読むというような意味かと思いますが、実際に収録曲名のすべてに花の名前が付けられています。このコンセプトはどのように出てきたんですか?

有馬「それがもうパッと浮かんだんです。具体的に何かに影響を受けたとかはなくて」

山本諒(ドラムス)「花言葉でいくと言われたとき、いいじゃんと思いました。曲のそれぞれに色がつきそうだなって」

竹内里美(ベース)「有馬っちっぽいなと思いました。彼は、純粋な性格だと思うんです(笑)。だからこそ不器用なところもあって、人に花を贈るとき、花言葉の意味をふまえて贈るんだけど、あえてその意味を言わないで渡すような人というか。そういう有馬っちの人柄が作品に出るんだろうなと思いました」

菅原「花をモティーフにした作品って世の中に溢れているから、俺は手放しに〈そのアイデアいいね〉とはならなかったんです。でも、〈これをこっそり君に渡したいと願っているんだ〉というような他人にちゃんと伝えたい、隠し持っている感情が有馬っちにはあるんだと気づいて。要するに、人に想いを伝えるための媒介としての花なんだなと」

――律儀に、ほとんどの楽曲で花という単語や、花を連想する言葉が出てきます。曲や歌詞はどういう流れで作ったんでしょう?

有馬「まず花言葉を調べて、自分が表現したい意味を持っている花を選んでいきました。その意味をもとに、曲や歌詞を膨らませていった感じですね」

――花言葉を調べていくうえで、意外な発見などはありましたか?

有馬「たとえばクローバーの花言葉は〈幸福〉が有名なんですけど、実は〈私だけを見て〉という意味もあるみたいで。そのニュアンスは“Clover”にも入っていると思います。

僕、基本的に自分に自信がないんですよね。だから、さっきも言われたように自分の想いを伝えるのがなかなか苦手で、でも曲のなかでは言えたらいいなと思っているんです。〈私だけを見て〉って自信があってポジティヴなようにも捉えられるけど、その願いがいまは叶っていないというネガティヴな意味も含んでいる。その二面性がおもしろいなって」

『Reading Flowers』収録曲“Clover”

――有馬さんの〈私を見て〉という想いは、“Clover”以外の曲でも表れているかと思います。たとえば“Iberis”には〈君に憧れられたい〉という歌詞が出てきますし。

菅原「すごい歌詞ですよね(笑)」

――ストーン・ローゼズの“I Wanna Be Adored”(89年)かっていう(笑)。

有馬「そこは意識しましたね。基本的に、〈見られていない、届いていない〉という経験が多かったので、それが出ているのかもしれません(笑)」

荏原「有馬の歌詞は、僕らが一緒に過ごしていくなかで話したり感じたりしたことが反映されている気がするんです。僕らの気持ちを代弁してくれているというか」

山本「有馬1人のことを歌っているわけじゃないと感じられるのが、メンバーとして嬉しいなと思います」