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© Jason Niedle

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 南部のテキサス出身のジャニスはブルーズとR&Bに強い影響を受けており、広い人気を獲得した最初の白人女性ブルーズ歌手でもあった。シャウトやスクリームを交え、喜び、悲しみ、痛み、怒りなどの感情を生々しくさらけ出す力強く情熱的な歌唱は主にアフリカ系アメリカ人歌手の表現から学んだもので、それまでの白人女性歌手からはほとんど聴いたことがなかった。彼女が先鞭をつけたことで、以降の女性アーティストのもっと自由な歌唱表現に道を切り開いたのだ。だから、この作品をジャニスだけでなく、先輩女性歌手たちも称えるトリビュートにしたことを、彼女もあの世で喜んでいるはずだ。

 実はブロードウェイ上演時に、デイヴィスのパフォーマンスへの絶賛の一方で、酒や麻薬への耽溺など、彼女の人生の暗い面を描く部分が少なく、これでは消毒されたジャニスではないかという厳しい批評もあった。だが、その意見は必ずしも的を射ていないのではないか。本作にはジャニスの遺族が制作に係わっているのだが、彼らはこの作品の前に、妹ローラが姉の手紙を多く引用して書いた同名の著書を原作にしたミュージカル「Love, Janis」を制作している(94年初演で、01年にオフ・ブロードウェイ上演)。そちらでジャニスの人生を史実に沿って年代順に描いたので、当初からこちらはその悲劇的な側面とは異なるものを作ろうとした企画だったのだ。物語の展開が途中で年代順の進行から離れていくのも、最後に麻薬の過剰摂取による若くしての急死という悲劇が待つので、このショウはそこに終着しない道を選んだようだ。年代は前後するが、ジャニスを一躍有名にしたモンタレー・ポップでの一世一代の名演が終盤のクライマックスに置かれている。あくまで彼女の人生と音楽を称賛し、観客を高揚させる、喜びに溢れた作品にしようと製作陣は意図したのだろう。

 ジャニスの弟マイケルは映画化にあたって、こう言っている。「通路で踊りださなくちゃだめだよ!」と。日本の映画館で許されるものなら、是非とも座席から立ち上がって楽しみたい。

 


PROFILE: ジャニス・ジョプリン(Janis Joplin)
1967年に音楽シーンに登場して爆発的な人気を獲得したロック&ロールの女王。生々しい情感にあふれ、アメリカ南部ならではのおおらかさを感じさせる独特の歌声は、人々を魅了し、モンタレーやウッドストックをはじめとする全米各地のライヴ会場を席捲。“Me And Bobby McGee”“Piece Of My Heart”“Cry Baby”“Down On Me”“Ball And Chain”“Summertime”のカヴァー曲をはじめとする数々のヒット曲を生み出した。1970年に収録された遺作にして代表作でもある『Pearl』は9週間にわたり全米No.1を獲得。ジャニス亡き後、生前に収録された音源やパフォーマンス映像は、音楽界のアイコンとしてのジャニスのステータスを不動のものとし、後進のアーティストやジャニスの音楽を信奉するファンたちにインスピレーションを与え続けている。

 


CINEMA INFORMATION
松竹ブロードウェイシネマ「ジャニス・ジョプリン」

脚本・演出(舞台版):ランディ・ジョンソン
監督(シネマ版):デヴィッド・ホーン
振付:パトリシア・ウィルコックス
音楽ディレクター:ブレント・クレヨン
出演:メアリー・ブリジット・デイヴィス/オーリアナ・アンジェリーク/アシュリー・テイマー・デイヴィス/タウニー・ドリー/ジェニファー・リー・ウォーレン
配給:松竹
©BroadwayHD/松竹(2018年 アメリカ 117分)
日本語字幕スーパー版
2021年7月2日(金)より全国順次限定公開! [東京]東劇[大阪]なんばパークスシネマ[名古屋]ミッドランドスクエア シネマ 他
https://broadwaycinema.jp/