Page 2 / 2 1ページ目から読む

Alewya “Jagna”

天野「アラウィーヤはサウジアラビア出身、現在は西ロンドンを拠点にしているシンガー。リトル・シムズの2020年のEP『Drop 6』の収録曲“Where’s My Lighter”にフィーチャーされていたことで、彼女の存在を知った方もいるかもしれません。モーセズ・ボイドとコラボしていますし、ロンドンの新世代シーンの一員と言えるのではないでしょうか」

田中「しかも、ドラムンベースの有名なDJ/プロデューサー、シャイ・FX(Shy FX)が彼女のマネージャーを務めているそうですね。そんな彼女のセカンド・シングル“Jagna”は、ビートは細かく刻まれていてアフロスウィングやジャングルを思わせます。そのうえで、彼女のルーツにあたるエチオピアやアラビアの音楽特有の音階、コーラスが落とし込まれていて、独自のサウンドになっている。あと、ハード・ロックっぽいギターが鳴っていて、ちょっとエイジアン・ダブ・ファウンデイションみたい。アラウィーヤは、リトル・シムズのツアーにオボンジャヤールと共に帯同するそうです。さらに注目を集めそうですね!」

 

Helado Negro “Gemini And Leo”

天野「エラード・ニグロは、サヴァス・アンド・サヴァラス(Savath & Savalas)のメンバーとしても知られるシンガー・ソングライターですね。彼は、RVNGからリリースした前作『This Is How You Smile』(2019年)が高く評価されました。この“Gemini And Leo”は、なんと4ADへ移籍して発表した新曲。そのためかわかりませんが、これまでのエクスペリメンタルでローファイな質感が少し抑えられていて、ポップでわかりやすく、ダンサブルになった印象を受けました」

田中「エラード・ニグロは、クルアンビンやブリオンらが参加したデヴィッド・ボウイのトリビュート・アルバム『Modern Love』(2021年)“Sound And Vision”をカヴァーしていたのですが、この新曲は同曲での音作りに似たサイケでスペーシ―なサウンドですね。ブリっとしたドラムとファットなベースが気持ちいいです。演奏には、USインディーの人気バンド、ワイ・オーク(Wye Oak)のジェン・ワズナー(Jenn Wasner)も参加しているみたい。新作『Far In』は、ちょっと先ですが10月22日(金)にリリース。楽しみですね」

 

Lucy Blue “Snow In Tokyo”

田中「最後はルーシー・ブルーの“Snow In Tokyo”。彼女はアイルランドのダブリン出身、まだ19歳のシンガー・ソングライターです。この曲はデビューEP『Fishbowl』の収録曲。僕は今回のEPで彼女のことを知ったのですが、検索したところ、TOWER DOORSの小峯崇嗣くんがnoteで絶賛していました

天野「〈Billie Eilishに初めて出会った時の衝撃具合〉……。〈衝撃具合〉という言葉が引っ掛かって、いつも小峯くんの文章を校正している癖が出てしまいました(笑)。それはさておき、憂いを感じさせる歌声はたしかにビリーっぽいし、最初の2つのシングルは“Ocean Eyes”(2016年)の頃を思い出させなくもない。でも、ルーシー・ブルーはもっとベッドルーム・ポップやインディー・ロック寄りで、クレイロに近いものを感じますね。この“Snow In Tokyo”は特にそう。すごくいい曲だと思いました」

田中「これまでの曲よりもアップテンポでポップな印象です。シューゲイザーなギター・サウンドと浮遊感を持ったシンセは、レディオ・デプトやウェストカストといった北欧のドリーム・ポップ勢を思わせますね。〈東京の雪〉なんてタイトルから、映画『ロスト・イン・トランスレーション』(2003年)で流れていてもおかしくない楽曲だなーと思いました」

天野「僕の苦手な映画だ(笑)。〈東京で雪が降ったら〉という歌い出しから引き込まれるし、フィービー・ブリジャーズの“Kyoto”(2020年)を意識している感じもします。8ミリ・フィルムのビデオも最高」

田中「ところで、フォー・ゾーズ・アイ・ラヴ(For Those I Love)とかデニ―ス・チャイラ(Denise Chaila)とか、いまのアイルランドからは次から次におもしろい才能が出てきますね。それぞれにシーンも分かれていて、音楽性もポスト・パンクからルーシー・ブルーのようなインディー・ポップ系まで、さまざまです。ダブリンを中心としたアイルランドのシーンには、引き続き注目していきましょう」