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AURORA “Cure For Me”

天野「日本でも人気が高いノルウェーのポップ・シンガー、オーロラ。ケミカル・ブラザースの楽曲“Eve Of Destruction”(2019年)にゆるふわギャングのNENEと共にフィーチャーされていたことで、彼女のことを知ったリスナーも多いと思います。9月に開催予定の〈SUPERSONIC〉への出演も発表されていますね」

田中2016年の『All My Demons Greeting Me As A Friend』と2018~2019年の連作『A Different Kind Of Human』は、どの作品も北欧らしい幽玄さと美しさをたたえたいいアルバムでしたよね。あと、忘れてはいけないのが、イギリスのデパート〈John Lewis〉のCM曲として話題になったオアシス“Half The World Away”のカヴァー」

天野「普段オアシスしか聴いていない亮太さんが、ただ〈オアシス〉って言いたいだけじゃん……。まあ、あれはいいカヴァーでした。それにしても、この新曲“Cure For Me”は、彼女としては珍しくダンサブルなポップ・ナンバーですね。シンコペーションするど派手なシンセサイザーのリフもイケイケでレイヴィー。オーロラは、この曲が収録されるという新作について〈生意気でワイルドなアルバムを作りたかった〉と語っています」

田中「着想源としては、同性愛やトランスジェンダーがいまだに違法とされている国や地域への憤りや悲しみがあったそうで、〈治す必要なんてない/自分自身のままで〉と、人々をエンパワーするものになっています。性的マイノリティーへの理解を促進するための法案にさえ眉をひそめる、この国の政治家のみなさんにも聴いてもらいたいですね」

 

PinkPantheress “Passion”

天野「ピンクパンサレスは、TikTokでブレイクした新世代アーティスト。ゴールドリンクが6月にリリースしたアルバム『HARAM!』の収録曲“Evian”でフィーチャーされていました。現在、英ロンドンの大学生である彼女は、主に90~2000年代の楽曲をサンプリングしたビートに、自身で作ったメロディーを乗せた動画をTikTokに投稿して注目を集めました」

田中ジャスト・ジャックの“Starz In Their Eyes”(2007年)を使ったり、ネタ選びのセンスがいんですよね。有名すぎずヒット曲すぎず、でも、あの時代を知る人ならニンマリしちゃうような曲を使っていて」

天野「要するに、亮太さんのツボってことでしょ。ピンクパンサレスは大ネタのディスコ/ハウスや2ステップ、それにジャングルやドラムンベースのビートを使っていることが多いんです。この“Passion”はジャングル風。もともと彼女の曲は1~2分台のものが多くて、この曲も2分18秒という短さです。〈いい感じ〉と思っていたら、あっという間に終わっちゃいます」

田中「プロダクションを手掛けたのは、同じくロンドンを拠点に活動してるプロデューサーのIZCOjkarri。ひんやりとした質感のサウンドはもちろん、〈流れるようなメロディーが気持ちいい~〉なんて思っていたら、なんと彼女は、ソングライティングの面でブリンク182やグッド・シャーロットなどのポップ・パンク・バンドから強く影響を受けているんだとか。ここにもポップ・パンク再評価の波が!」

 

Issam Alnajjar “Mn Gheirik Enti”

天野「今週最後に紹介するのは、イッサム・アルナジャールの“Mn Gheirik Enti”。ヨルダンのシンガーでまだ10代のイッサム・アルナジャール。最近僕は彼に注目していて、というのも、“Hadal Ahbek”という2月にリリースした曲がTikTokでヴァイラル・ヒットしたんですよね。それで、ユニバーサルとリパブリックが新たに立ち上げた〈Universal Arabic Music〉が最初に契約したのが、彼だったんです

田中「“Hadal Ahbek”は、プロダクションはちょっとチープですが、アラビックな旋律とアラビア語の歌がクセになる曲で、ヒットしたのもわかりますね。リハブ(R3HAB)がクラブ・ミックスをリリースするなど、盛り上がりを見せているなかで待望の新曲“Mn Gheirik Enti”が届けられました。“Hadal Ahbek”と同様、イッサムのヴォーカルとギターが中心になっていますが、かなりゴージャスなプロダクションになっています。メロディーも欧米のポップスに近いフィーリングですが、アラビックな哀愁が漂っていますね」

天野「いい曲だと思います。ラテン・アメリカ、アフリカときて、2020年代はアラブやインドなどの南アジアのポップ・シーンがアツいんじゃないかなと僕は思っているんです。なので、イッサムの活躍には期待したいですね! ヨルダンのジャスティン・ビーバーになってほしい!」