Page 2 / 2 1ページ目から読む

Remi Wolf “Quiet On Set”

天野「LAを拠点とするZ世代のシンガー、レミ・ウルフ。〈PSN〉では3月に彼女がドミニク・ファイクと共演した“Photo ID”を取り上げました。その後もシングルをいくつか発表していましたが、このたび待望のデビュー・アルバム『Juno』を10月15日(金)にリリースすることを発表。この“Quiet On Set”と“Grumpy Old Man”がリード・シングルとして同時にリリースされました」

田中「2曲ともいいですよね。アーチー・ベル&ザ・ドレルズ“Tighten Up”(68年)を彷彿とさせるナイスな湯加減のソウル・チューン“Grumpy Old Man”と比較して、“Quiet On Set”は90年代のグランド・ロイヤル・マナーなパーティー・ラップ。ルシャス・ジャクソンやアドロックとのコラボで知られるノーザン・ステイトなんかを引き合いに出したくなります」

天野「とはいえ、あの頃のサウンドをただなぞっているわけではなく、クラップが倍速で打たれるビルド・アップはEDMやトラップ以降のそれ。レミのフロウや、ぶっといベースの響きなんかもかなり現代的な感じですね。このあたりのバランス感覚に、新世代ならではの軽やかさとフレッシュさを感じますね!」

 

Blossoms “Care For”

田中「マンチェスター、ストックポート出身の5人組、ブロッサムズ。これまでに3作のアルバムをリリースしているUKロックの中堅バンドですね。もともとメロディーセンスには定評のあったバンドですが、この“Care For”には驚きました。流麗なストリングスとディスコ・ビートが特徴の、超ソフトなポップソング。ロマンティックで洗練されていて、まるでビージーズやアバみたいのチークタイム・ソングみたい」

天野「ノスタルジックすぎる気もしますが、いい曲ですよね。レモン・ツイッグスやフォクシジェンのファンに聴いてほしい! フロントマンのトム・オグデン(Tom Ogden)によれば、スタイル・カウンシルやダイアナ・ロス、ジョン・レノン&オノ・ヨーコの『Double Fantasy』(80年)などがインスピレーションになっているのだとか。彼はこの曲を〈結婚式用のディスコ・ダンス〉と表現していますね」

田中「詳細については未定ですが、NMEのインタビューによると、この曲が収録されるであろうニュー・アルバムは70年代の音楽を研究して制作されているそうです。多くの楽曲をピアノで作りはじめたことが、今回の懐古的な路線へと関係しているんだとか。楽しみですね」 

 

Geko “Mambo Velešićano”

天野「最後の曲です。ゲコの“Mambo Velešićano”。ゲコも、そのうち紹介したいと思っていたアーティストなんですよね」

田中「97年、マンチェスター生まれのラッパーであるゲコ。アルジェリア人の母とリビア人の父との間に生まれたという、英国らしいダブル・ルーツの若者です。2017年にデビュー・アルバム『LionHeart』をメジャーのソニーからリリースしているので、すでにキャリアがあるラッパーなんですね」

天野「でも、僕が知ったのは最近なんです。ゲコの特徴は、彼のルーツを活かしたアラビックなメロディーとイギリスのアフロスウィング/アフロバッシュメントを融合させた〈アラビック・スウィング(Arabic swing)〉。6月にリリースされたシングル“Woi Oi”を初めて聴いたときは、〈こういうのもありなんだ!〉と驚きましたね。ただ、他にアラビック・スウィングをやっているアーティストはいないようなので、ムーヴメントというわけではないようです(笑)。ちなみに、ゲコは上で紹介したC.・タンガナと2019年にイル・ブルー(iLL BLU)のシングル“Go Time”で共演しています。UKラップ・シーンの越境性が感じられる、必聴の曲ですよ」

田中「今回の“Mambo Velešićano”は、アフロスウィングではなくトラップですよね。いかにもアラビックなストリングスのメロディーが、ゲコならではという感じです。特徴的なサンプリングの元ネタが気になるところ。〈マンボ〉なのでラテン音楽の要素もちょっと感じますし、まさに現代のマルチカルチュラルなポップ・ミュージック、という印象です」