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〈meets〉したかった

 〈Guitar Esquisse〉の〈Esquisse〉には〈下書き〉という意味がある。実際、Instagramで音源をアップしていた段階では、アルバム制作を前提としていない〈下書き〉だったわけだが、(((さらうんど)))としてKAKUBARHYTHMのレーベルメイトでもあるXTALとの共同作業が始まることで、そこに新たな色彩が加えられることになった。

 「レーベルのスタッフから〈あの音源、作品にしませんか?〉という話をもらったんですよ。ありがたいけど、Instagramの音源をそのまままとめるのはどうも違う気がして。せっかくだったら誰かと組んであれを飛躍させたいなと思っていた。そうしたらスタッフから〈XTALくんはどうですか?〉というアイデアが出てきて。XTALくんの音楽がすごく好きなのと、自分の中にないセンスの持ち主なので、どんな音になるか予想がつかないというところもおもしろそうだなと思いました」。

 だが、制作のプロセスは当初、決してスムースなものではなかったようだ。

 「広い解釈として〈ダブ〉というキーワードは伝えましたが、お互いのアイデアが対等に融合した時の音を探りたかったので、あえて曖昧な状態で〈とりあえず試しに音をいじってください〉とお願いしたんです。最初のやり取りでは、僕がやっていたことをすごく尊重したものを作ってくれたんだけど、ちょっと気を遣われてる気がして(笑)。XTALくんとはもともとそれほど交流があったわけじゃなかったから、リモートで世間話をしたんですよ。中学校のとき何を聴いていたとか、本当に他愛のない話。XTALくんが去年出した作品(『Aburelu』)がもはやハウスでもない異質の音楽で、それの格好良さについて話したり。そのあとにXTALくんから送られてきたのが、アルバム2曲目の“Sketch in the Shade”。それが自分のイメージの範疇をポンと飛び越えたもので、これでもう大丈夫だと思った。そこからは〈1回ストップして考え直しましょう〉みたいなことは一切なかったし、やり取りはすごくスムースでした」。

 XTALのゆったりとしたビートで幕を開ける “Sketch in the Shade”は、AOR的な雰囲気もある吉澤のギターがしなやかな曲線を描く、本作随一のメロウ・チューン。そこで捉えられているのは、吉澤とXTALが〈meets〉した瞬間でもあった。

 「最初の段階で、このアルバムの名義は〈Masatomo Yoshizawa meets XTAL〉にしたいという話はしました。70年代のジャマイカでよくあったじゃない? (オーガスタス・パブロとキング・タビーの共演作である)『King Tubby Meets Rockers Uptown』とか、ハリー・ムーディとキング・タビーの『Harry Mudie Meet King Tubby's In Dub Conference』とか。やってる音はレゲエじゃないんだけど、あの〈meets〉による音のマジックをめざしたかった。(サイトウ“JxJx”)ジュンくんには〈meetsってそれ? マニアックだなあ〉って言われて(笑)。今までYSIGを聴いてくれた人にはそういう部分も楽しんでもらえるんじゃないかと思っていて」。

 YSIGでもたびたび顔を覗かせていた吉澤の音楽マニアぶりは、そのように存分に発揮されている。だが、本作を覆っているのはイージー・リスニング的な耳心地の良さ。マンションの一室で演奏された音のサイズ感を残しながら、それぞれのフレーズに込められたエッセンスをナチュラルに拡張させていくXTALの職人的な音作りもまた、本作を特別なものにしている。