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Photo by Alex Lake
 

“Rewind The Film(featuring Richard Hawley)”(2013年作『Rewind The Film』収録)

前述した〈最後の挑戦〉を経て、『National Treasures』及びファースト・アルバム『Generation Terrorists』のリイシューで気分をリセットした彼らは、ヒット・シングルを書くというこだわりから解放され、新たな試みに乗り出した。そう、同時進行で作り上げた2枚の対照的なアルバムの連続リリースである。元ロングピッグスでシェフィールドの詩人/シンガー・ソングライター、リチャード・ハウレイをフィーチャーしたこの曲は、ダウンテンポで内省を極めた、バンド史上初のアンプラグド作品『Rewind The Film』へのイントロダクション。沈みゆく太陽を眺めているかのようなフラジャイルな趣と、リチャードのまさに黄昏色のバリトン・ヴォイスが相俟って、〈老い〉というリアリティーと向き合うバンドの姿を慈しみをもって捉えている。

 

“Europa Geht Durch Mich(featuring Nina Hoss)”(2014年作『Futurology』収録)

ウェールズに軸足を置いた『Rewind The Film』から一転、双子のアルバムの後編ではヨーロッパ大陸の思想や文化に着目。ベルリンのハンサ・スタジオにも赴き、クラウトロックやボウイのベルリン三部作に刺激を受けて、かつてなくエレクトロニックなレトロ・フューチャー路線に舵を切った。言うなれば、第一にウェルシュであり、次にヨーロピアンなのだというアイデンティティー意識を、これら2作品で印象付けた感がある。ずばり〈ヨーロッパが自分のなかを通り抜ける〉と題され、ドイツの大女優ニナ・ホスの声を配したこのマニックス流ディスコ・チューンでは、ヨーロッパの多様性と理想を讃えながらもその分断を嘆き、英国のEU離脱を予見していたかのよう。

 

“Together Stronger(C’mon Wales)”(2016年のシングル)

カルチャー、政治と並ぶマニックスの好物と言えばスポーツだ。直近の来日もラグビー・ワールドカップの開催時期(2019年)にちゃっかり合わせていた彼らは、2016年のサッカー欧州選手権にウェールズが初出場するにあたって、当然のごとく公式応援歌を担当。久しぶりにマス向けのキャッチーなアンセムを録音して、同国のベスト4入りに陰ながら貢献したが、歌詞はマス向けどころかニッチなことこのうえなく、ウェールズのナショナル・チームが辿った不遇の歴史を仔細に振り返り、ガレス・ベイル以下レコーディングにも参加した代表選手たちの名前を歌い上げた。トゥーマッチなくらいの情報量といい、栄光と挫折が同居する感覚といい、古典的名曲“Can’t Take My Eyes Off You(君の瞳に恋してる)”のさりげない引用といい、徹底したマニックス節に。

 

“International Blue”(2018年作『Resistance Is Futile』収録)

もはや以前ほど音楽にインスパイアされなくなったからと、ニッキーが画家や作家に作詞の題材を求め始めたのは『Futurology』以降。同作ではウラジーミル・マヤコフスキーやエドヴァルド・ムンクへのオマージュを綴っていたが、この試みは『Resistance Is Futile』に引き継がれ、このファースト・シングルは、彼がニースの美術館で観たイヴ・クラインの作品特有のブルーに端を発している。これを受けてジェイムズとショーンは、クラインのブルーのピュアで自由でオプティミスティックなエネルギーを音で描写。排外的な思想が広がり、世界が重い空気に包まれていた混迷の時代に、自分たちを鼓舞し前へと背中を押してくれるものを、懸命に探し求めていたのだろう。