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誰かの努力や苦しみを、〈結晶〉という言葉に

――2曲目はタイトル曲でもある“結晶”ですが、まずアルバム名はなぜ『結晶』になったんですか?

「まだ“結晶”という曲名も付ける前に、アルバム・タイトルを考えていた時にふと〈結晶〉という言葉が思い浮かんだんです。もうこれは〈結晶〉で決まりじゃんって思って。それは今回自分がアルバムで表現したかった世界観に〈結晶〉という言葉が一番合うような気がしたんですよね」

――それはなぜですか?

「まさにさっき言ったように、世界は誰かの努力や誰かの苦しみ、誰かの惰性とか誰かの願いで成り立っていて、それをみんな気付かずに当たり前のように消費して生きてる。そういうことに今回気付かされて。だから今回はそういうことを大きなテーマにしようと思って、その誰かの努力や苦しみを、〈結晶〉という言葉で表現したんです。アルバム・タイトルを『結晶』に決めた後で、この曲のタイトルも“結晶”にしました。“スノードーム”っていう曲が入るのも決まっていたから〈雪の結晶〉みたいだし、いいなって」

――ちなみに、前作『サピエント』は、〈このコロナ禍は人類の課題だ〉ということで、広い意味での〈人間〉という言葉の『サピエント』というタイトルにしたと前回仰っていましたけど、今の話を聞くとそこから考えが一歩進展してますよね。

「そうですね。こういうことは本当に今まで思ってもいなかったことで、新たな考え方だったので、それは進化かもしれないですね」

――“結晶”は途中からリズムが3連に変わるのもカッコいいです。ああいうのもいろんなパーツを組み合わせているからですか?

「そうです。それぞれ違う断片があって、使いたいフレーズを組み替えるという作業をずっとやってるんですけど、たぶんAメロから順番に作っていくとBメロってサビへのステップとしてあっさり終わらせがちなんですよね。でも、私はBメロにも渾身のメロディーを使いたくて、そういう作り方はやめたんです。自分の温めてた好きなメロディーを全部のパーツに使いたい。だからどうしても色濃く、くどい感じになっちゃうんだけど、全部が渾身のメロディーなんです」

――Bメロってサビへの助走みたいなものが多いですからね、それは分かります。欠片の時点で〈これはBメロ用〉って分けてるんですか?

「いや、どこにでも当てはまるようにしていて、サビにも使えるようなものをBメロに使ったりすることもあります。だから後で〈違う組み合わせもあったな~〉〈こっちの方が良かったかな~〉って思うことも多くて。そのチョイスはもっとシビアにやるべきことなのかもしれないですけどね」

――次の“ひぐらし”は歌詞に恋とか愛とか出てくるので、一見恋愛の歌に聞こえるんですけど、それだけではない気がします。勝手なイメージなんですが。

「そういう感想を聞きたいのですごい嬉しいです。これは恋愛の曲というわけでもなくて、〈ある人の暮らし〉がテーマです。もちろんその中には恋愛も含まれているんですけど、暮らしのいろんな要素が集約されています。主人公は日々満たされない日常を送っていて、その様子を〈その日暮らし〉という言葉とセミのヒグラシと、ふたつの言葉にかけています」

――間奏のコードが変わって聴こえるんですが……。

「ギターはイントロと同じコードを弾いてるんですけど、ベースが変わってるので、その兼ね合いで世界観が変わって聴こえるかもしれないです」

――続く4曲目の“アンティーク”は重たいロックですが、去年お話を訊いた時〈どうしたら新しい音楽を作れるだろう〉とか〈時代についていけてないんじゃないか〉とか考えることがあると仰っていて、そういったこととは関係ありますか?

「関係なくはないんですけど……アンティーク・ショップに置いてあるような古い骨董品って、高い価値が付いてるじゃないですか。なのに人間は古くなっていくとネガティヴに捉えられがちで、なんでそうなんだ?って思ったんですよ。もちろんすごく経験値のある人だっているわけですけど、やっぱりみんな〈年取りたくないね〉とか言うじゃないですか。若い方がいいのかな? 家具なら古い方を求める人だっているのに、って。アンティークをテーマに曲を書こうと思ったら、自然とそういうことを考えていたんですよね。もっと年を取ることをポジティヴに考えられないかなっていうことですね。人間はどうしても、終わりに向かっているイメージがありますよね。そういう皮肉を歌にしたかったんです」