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〈自分のために〉を貫くことから生まれる新しい繋がり方

――そうやって作った作品がtomadさんの耳に届いて、Tomgggさんと一緒に楽曲を作るようになったのは、思いもよらない展開だったわけですよね。

「そうですね。最初はホントに3人くらいの、近しい人だけに聴かせて、今思うとラッキーだったんですけど、すごく褒めてもらえて、それでちょっと自信が持てて。で、その中の一人がtomadさんと知り合いで、たまたま聴かせてくれて、次の作品を一緒に作ることに繋がったのは嬉しかったですね。すがるように曲を作って、その曲を聴いて元気が出るわけではないけど、しんどいのがちょっと和らぐことがあったのは事実で。そうやって〈自分のために〉を貫いた音楽だったら、もしかしたら同じようにしんどい思いをしている誰かの気持ちを和らげることができるのかもしれないと、そのとき思いました」

――タイミング的には作品の発表とコロナ禍が重なったわけですが、物理的にも心理的にも人と人との距離が遠ざけられたことは、制作にどんな影響を与えたと言えますか?

「大変な思いをしている方もたくさんいらっしゃると思うんですけど、正直に言うと、私はちょっと楽になったというか、人間関係に対する考え方がガラッと変わったんです。そんなにたくさん人と会う必要はなくて、自分との対話が大事だなって。違う意見を知ることも大事だし、共感も大事だとは思うんですけど……それによって余計なへこみ方をしてるときもあって、でもそこでへこむ必要はないなって、前向きになれたんです。自分は自分でいいし、考え方はみんな違っていいし、会う人は少なくてもよくて、大切な人にだけ会えればいい。そういうことをコロナ禍で再確認できました」

――『Zawameki』の制作はコロナ禍の前だったわけですけど、『hibi』には今話していただいたような心境の変化が反映されていますよね。

「そうですね。tomadさんとTomgggさんとは一度もお会いせずに作品を作ったんです。Zoomで顔を見せたりもしないで、電話だけして、データを送り合って。それがすごく心地よい距離感での制作で。〈一緒に〉というよりは、それぞれが独立していて、個々のできることをやっていく、新しい繋がり方だなと思って、楽しかったです」

2020年作『hibi』収録曲“hibi”
 

――SNSに対する違和感というのも、きっとさっき話してくれたようなことが原因ですよね。みんながやってるから、繋がらなくちゃいけないというような無言のプレッシャーがあるけど、でも必要のない繋がりによって疲弊させられることもあって。そういう中で、『Zawameki』と『hibi』を作ったことによって、〈自分は自分でいい〉と思えたというか。

「もともとみんなでひとつの感情を共有するのは苦手なタイプではあったんです。掘り下げるとみんなの感情は一人一人違って、喜びだけでも悲しみだけでもない、それぞれの感情がもっと細かくあるだろうと思ったりもして。でもSNSだとイエスやノーがはっきりしたものの方が受けるから、難しいなって」

――どうしても白黒はっきり分かれてしまって、それがときに分断を生んだりしているわけですけど、大事なのはまさにその〈あいだ〉だと思うので、個人的にも納得がいきます。ちなみに、m/lue.という名前の由来がフランス語で〈中間〉を意味するmilieuだというのは、今話していただいたようなことと関係しているのでしょうか?

「名前の由来は……ダジャレっていうか(笑)。『Zawameki』を聴いてもらったときに、ある一人の方が〈これが感想〉と絵を描いてくれて、それが星を見る人の絵だったんです。で、ちょうどアーティスト名を考えていたので、星を見る、ミル、ミリュー、みたいな(笑)。でも意味を調べたら、〈中間〉とか〈環境〉で、すごくぴったりだなって。フランス語のmilieuという綴りがなかなか覚えられなくて、打ち間違えをきっかけにm/lue.にして、変だけど気に入ってます。タグ付けできないから不便なんですけど(笑)」