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STUTSさんとのコラボは楽しくて刺激的でした

――『RIGHT TIME』のことをお訊きする前に、“Presence”をSTUTSさんと作られたことについてぜひお伺いしたいです。あの曲の制作はどうでした?

「こんなことめったにないんだろうな、っていうくらい楽しかったです。STUTSさんとのコラボレーションは純粋に楽しくて、刺激的でしたね。縛られてはいなかったですよ。お互いを尊敬しながら、自由にやらせてもらいました」

STUTS & 松たか子 with 3exesの2021年作『Presence』収録曲“Presence Remix feat. T-Pablow, Daichi Yamamoto, NENE, BIM, KID FRESINO”。ドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」の主題歌で、butajiは松たか子の歌唱パートのメロディーと作詞を担当した

――“Presence”の制作を経てbutajiさんが変わったことはありますか?

「実感も〈よくやったでしょ〉と顕示する気持ちもなくて、いい曲が出来てうれしい、いい仕事ができた、というだけなんですね。現場の空気がよくて、STUTSさんもスタッフさんもすばらしかったですし。ただ、〈こういうこともできるんだよ〉と示せたとは思います」

――じゃあ、ご自身の曲を作るような感覚だった?

「もちろん、それとはちがいます。松(たか子)さんが歌うという前提でキーを設定しましたし、TVドラマの曲なので日常的に聴かれてほしいと考えていました。STUTSさんは〈これまでの松さんの雰囲気とはちがうものを作りたい〉と言っていたので、その意図も意識しましたし。“Presence”のキーって松さんの本来の持ち味とはちょっとちがうんですけど、新たな側面としてチャレンジしていただきましたね。

ただ、STUTSさんのトラックが導いてくたところが大きくて、僕の仕事はトラックにフィットするものを探っていく作業でした。あんまり作為的なものじゃないんです」

――STUTSさんのビートや曲のテーマからメロディーを彫り出していく、最適なところを探っていく感じ?

「そうですね。どの位置にどの音があったら気持ちいいかな、と探っていきました。〈王道をねらうぞ!〉という感じではなかったです(笑)」

 

すべては未来のために

――『告白』以降、ということで言うと、『告白』について僕がインタビューしたときは、butajiさんがバイセクシュアルであることをカミングアウトされるか迷っていらっしゃったんですよね。その後、butajiさんは〈東京レインボープライド〉に参加されたり、〈プライド月間〉のSpotifyプレイリストのカバーに選ばれたりと、活動が変化したように見えました。

「たしかにそういう側面はあったでしょうね。シーンによりけりですけど、スポークスマン的なポジションや発言を求められるのであれば、社会的な立場から発信することで、できるだけ応えていきたい。それは、将来のためになんです。できる範囲内で、未来のために主張をしていくこと、意識的に変えていくことはやっていきたいし、求められたら応えたいと思っています。僕は、〈この作品がどれだけ長く耐えられるか〉と常に考えながら作品を作っていますし」

butajiがカバーに選ばれたSpotifyプレイリスト〈DISCOVER OUR SPACE〉。セクシュアルマイノリティーによる音楽を称えるプレイリストで、キュレーションはライターの木津毅

――その一方で、『RIGHT TIME』では過去や未来ではなく〈今〉を表現することに重きが置かれていますよね。

「〈今〉を表現しているんですけど、今聴いて、今終わるものを作っているつもりはないんです。今ここにあるシングルイシューについて歌っているわけじゃなくて、もっと奥行きがあるものを作っている。そこは明確にしておきたいですね。主題は〈今〉なんですけど、作品って残るものなので、結局、未来についても言及していることになる――それは、メタ的な視点かもしれないけど」

――〈今〉を表現しても幅広い時間を必然的に含んでしまう、というのはおもしろいですね。

「作品は外側に向かって無限に開いていてほしいけど、奥行きもほしい、何重ものドアがあってほしいんですね。ドアをひとつ開けたら終わりじゃなくて、どんどん奥深くまで行けるものを作りたいんです」

――『RIGHT TIME』は、まさにそういうアルバムだと思います。