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すごくオープンになった

 耳に残るシンセ・フレーズの反復を基調に、作り込まれたサウンドデザインと曲展開が本作のなかでも白眉の“Deepest Ocean”、イギリスでThe fin.のサポートを務めるドラマーのトム・カーターによるブレイクビーツがフィジカルな印象を与える“Old Canvas”を経て、アルバム前半はアコースティック・ギターを爪弾く“At Last”で穏やかに締め括られる。

 「“Deepest Ocean”のテーマは〈表層と深海〉で、イントロの〈バシャン〉っていう音で海に飛び込んで、潜っていくと自分だけの理想郷がある、みたいなイメージ。そういう曲が出来たのは自分が理想と現実のギャップに苦しんでたからで、結局最後に〈We lose ourselves〉と言ってるように、自分を見失ってるんですよね。“Old Canvas”は実家の玄関に飾ってあった風景画がモチーフで、今の自分と過去の自分を照らし合わせながら書きました。そこからより深く自分の内側に入っていったのが“At Last”で、もともと実家でずっとアコギを弾いてて、それこそビートルズを歌ったりしてたから、そういう要素も入れたかったんです」。

 物悲しい旋律と歪んだシンセ・ベースがヘヴィーな印象を与える“Loss, Farewell”と、途中からダンサブルな曲調に変化する“See You Again”は、Yutoの死生観を表している。

 「コロナでみんな〈死〉を近くに感じたと思うけど、そういえば子どもの頃は結構〈死〉について考えてて、その感情がリアリティーをもって復活してきたから、もう一回向き合おうと思って出来た曲です。“Loss, Farewell”は2020年に友達が亡くなったとき、“See You Again”はおじいちゃんが亡くなったときのことで、友達のときは結構喰らっちゃったんですけど、おじいちゃんのときはいい死に方だと思ったから、曲調は全然違って、“See You Again”はハッピー・サッドみたいな感じですね」。

 ふたたびトムがドラムで参加したタイトル曲“Outer Ego”は、シーケンスのフレーズとリニアなビートが前向きな印象を与えるクラウトロック・ナンバーだ。

 「“Outer Ego”は初めて自分よりも下の世代に向けて書いた曲です。光を見てほしいというか、自分を信じてほしいというかね。最近みんな暗いじゃないですか? ビリー・アイリッシュとかもめちゃめちゃ暗いし、若い子が生きづらくなってるのかなって思うと、何かプラスになるエネルギーをあげたいと思って。だから、この曲が一番外に向かってる曲ではあるんだけど、自分に向けてのメッセージでもあって、自分のエゴに絡め取られて年を取るのは寂しいから、もっとビッグ・ピクチャーで生きたい。なので、宇宙の中に自我が広がって、どんどん自分が薄くなるような感覚です。今年30歳になったんですけど、これからの人生はそういう感覚が大事なんじゃないかなって」。

 音数を絞ったビートとハープのようなシンセでサイケデリアを生み出す“Sapphire”からは穏やかなトーンが強まり、アンビエント調の“Safe Place”を経て、ラストはアルペジオによるメランコリーと開放的な雰囲気が同時に感じられる“Edge of a Dream”が飾り、一旦曲が途切れた後、新たな始まりの予兆と共にアルバムは幕を閉じる。

 「後半はだんだんプライヴェートになっていく感じで、“Sapphire”は自分が大人になっていくストーリー。“Safe Place”は自分のベッドに帰っていく感じで、心も弱くなって、いろんな情報をシャットアウトして……“Edge of a Dream”ではもう寝てますね(笑)。90年代のSFみたいな、光の中に歩いて行くイメージ。で、最後にもう一度自分の意識が戻ってきて、また“Shine”に戻っていくんです」。

 Yutoの顔をモチーフにしたというアートワークは、まさにインナースペースとアウタースペースの繋がりを描いているが、自身のパーソナルをこれまでになく反映させた『Outer Ego』は、〈ホワイト・アルバム〉でも『Abbey Road』でもなく、Yutoにとっての〈ジョンの魂〉のようなアルバムだと言えるかもしれない。

 「アートワークに自分の顔を使いたいっていうのはずっと言ってて、宇宙に自分が広がってるイメージがバッチリやなって。今回の制作を経て、すごくオープンになったし、素直になった気がします。〈出し切ったからこそ、次に進める〉みたいな感じもありますね」。

ジョン・レノンの70年作『Plastic Ono Band』(Apple)