独自のアンビエントを追求する注目のアーティストたち
また、エレクトロニックミュージックのシーンでもアンビエントな注目作は多い。2010年代以降、60〜70年代のミニマルやドローンといった電子音楽が再評価され、そうした音楽にインスパイアされた作品を発表する新世代のミュージシャンが次々と登場している。
ケイトリン・アウレリア・スミス『Mosaic Of Transformation』(2020年)は、ヴィンテージシンセにストリングスやヴィブラフォンなど生楽器を取り入れた色彩豊かなアンビエントサウンドを緻密に構築。
また、フォークバンド、フローリストの中心人物、エミリー・A・スプレイグは、趣味で収集したヴィンテージシンセを使った電子音楽作品が高い評価を受けるなか、昨年、新作『Hill, Flower, Fog』(2020年)を発表。アコースティックな感触を感じさせる、木漏れ日のように優しく繊細なアンビエントサウンドを聴かせた。
エミリーと同じく、シンガーソングライターとして活動しているジア・マーガレットは病気でしばらく声が出なくなり、シンセサイザーを使ったアルバム『Mia Gargaret』(2020年)を発表。シンセサイザーに生楽器やフィールドレコーディングした音源を織り交ぜた安らぎに満ちたサウンドは、自分自身を音楽で癒やしているようでもある。思えば、エミリー・A・スプレイグがシンセ作品を作るようになったきっかけも、彼女が事故で楽器を弾けなかったからだ。両者とも治療期間中にアンビエントな作品に着手する、というところはイーノを思い出させるが、アンビエントミュージックにはヒーリング効果があるのかもしれない。
イーノといえば、彼が度々共作して信頼を寄せているジョン・ホプキンスが新作『Music For Psychedelic Therapy』(2021年)を発表した。本作ではエレクトロニクスを中心にしながら、オーケストラのように重層的なサウンドを展開。まさに〈空間と奥行きで聴き手を包み込む〉イーノ直系のアンビエントミュージックを聴かせてくれる。レコーディングは2021年1月から5月に行われたそうだが、そこにはパンデミックで鬱屈した気持ちを解放させるようなポジティヴな空気が満ちている。
また、ベテランのコールドカットはアンビエントミュージックのミックスアルバム『@0』(2021年)をリリース。坂本龍一、シガー・ロス、ジュリアナ・バーウィック、ララージ、スティーヴ・ローチなど世代を超えたミュージシャンが楽曲を提供している。メンバーのマット・ブラックによると、〈0〉とはマットが何度も経験したうつ病になりかけているような限界状態のこと。そんななかで、アンビエントミュージックは「精神的な要求をしないことで空間を開き、その柔らかな魅力でエネルギーを微妙に高め、下降スパイラルを回避し、ゆっくりと上へ、そして外へとナビゲートしてくれる」という。そんな音楽を集めて繋いだ本作からも、音楽を通じてパンデミックの苦しみから解放されたいという想いが伝わってくる。
パンデミックが始まる前から、世界では様々な社会問題や環境問題が起こり、インターネットに氾濫する情報に人々は疲れ果てていた。そして、そこに襲ってきたウイルス。今では多くの人々が精神的に追い詰められている。だからこそ、リスナーに何も押し付けず、ゆっくりと気持ちをとぎほぐしてくれるアンビエントなサウンドは、ウィズコロナの時代を生きるための処方箋なのかもしれない。
RELEASE INFORMATION
TOM MISCH 『Quarantine Sessions』 Beyond The Groove/BEAT(2021)
リリース日:2021年12月3日(金)
配信リンク:https://tommisch.ffm.to/quarantinesessions
■国内盤CD
品番:BRC686
価格:2,200円(税込)
■国内盤CD+パーカー(数量限定)
サイズ:S-XL
品番:BRC686TS/BRC686TM/BRC686TL/BRC686TXL
価格:9,350円(税込)
TRACKLIST
1. Chain Reaction
2. Cranes In The Sky
3. For Carol
4. Gypsy Woman
5. Parabens
6. Smells Like Teen Spirit
7. The Wilhelm Scream
8. Missing You
リリース日:2021年12月3日(金)
品番:BRC655
価格:1,980円(税込)
配信リンク:https://fkl.lnk.to/YlangYlang
TRACKLIST
1. Earthquake
2. Risk
3. Ylang Ylang
4. Brother
5. 100 Roses
6. 10 Years Ago
7. Risk (Galimatias Version)