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人生に重なる〈ドライヴ〉

──“Don’t Mind Baby”は微睡むような朝の状況描写から始まり、一気に明るいカントリーミュージックに展開されますが、デモの段階からそうだったんですか?

「展開はデモの通りですが、亮介さんのおかげでアレンジはかなり変わりました。最初のフリーテンポのパートからいきなり編成が華やかになるのは亮介さんのアイディアです。それによって、ひとりの女の子が部屋から飛び出して、〈きみ〉を乗せて車に乗り込むという描写がより鮮明になったと思います。歌詞は録音を進めながら書いていきました。

〈別れ〉というテーマが元々自分の中にあって、曲を書き進めていく中で、亮介さんと私をつなぐ車というモチーフを入れました。人と出会うということは必然的に別れることを意味しています。それはまるでドライヴのようですよね。乗り込んだからには、いつか目的地にたどり着いてその車を降りる。それは人生とも重なると思いました。

あと今回は『BLU』の“my mama”でご一緒した、赤坂カントリーハウスで演奏されている皆さんとも再び共演しました。赤坂カントリーハウスは亮介さんがティーネイジャーの頃から通っていらっしゃるライブハウスで、そもそもハウスバンドのみなさんと演奏したい、という私のリクエストもあり、亮介さんがカントリーの素養を感じさせるアレンジにしてくださいました。今年は赤坂カントリーハウスが45周年というメモリアルな年で、またご一緒するにはいいタイミングかなと思ってご提案させていただきました。

2015年作『BLU』収録曲“my mama”

自分がお世話になった人たちを誰かに紹介するのって、その人のことを信頼していないと抵抗があると思うので、改めて亮介さんが愛している人たちを私に紹介してくださったことに対して、認めていただいたというか、亮介さんの愛情を感じました」

──7年前と比べてご自身が成長したと思う部分はありましたか?

「きっと亮介さんにいただいた〈違和感〉という言葉から私の表現はどんどん広がっていったと思います。違和感を受け入れるということは、いろんな価値観を受容することでもあると思うし、広い器を持つということでもある。それを大切にしていれば、自分を曲げずにいろいろな価値観と共存できると思っています。

今回、亮介さんからコメントをいただいたのですが、〈『BLU』の時と同じように苦悩しながら作品を作り上げていく姿がありましたが、それは以前と違って力強く頼もしいものでした〉と書いてくださっていて。自分では気づけていなかったけど、その言葉で〈少しはこの7年間で成長できたのかな〉と思えました。

“Don’t Mind Baby”も〈カントリーJ-Pop〉というようなところで終わらずに、後半に私のブルーズロック的な部分がちょっと出てくるんです。そういう部分がすごく自分らしくていいなと思っています。これまでの自分の曲になかった広さがあると思うので、大きい会場で歌ってみたいという気持ちがありますね」

──カントリーというと、Reiさんにとってどんな影響を受けているジャンルですか?

「亮介さんと出会って本格的に聴くようになりました。ドワイト・ヨアカムやブラッド・ペイズリーを好きになったんです。

私がなんでブルーズを好きになったかというと、元々やっていたクラシックギターとブルーズに共通点があって、それは主に1人でやる音楽だからなんです。でも、カントリーは弾き語りもあるけど基本的に合奏するものなので、その対比がおもしろいなと思いました。

あと、カントリーは基本的に白人の音楽だけど、ブルーズは元々黒人の音楽という違いもあったり。そういう別のルーツを持っている私と亮介さんが一緒にやるのもミクスチャーでいいなと思いました」

 

パーソナルな表現こそ聴き手に深く刺さる

──歌詞からは、別れをできるだけ明るく噛みしめながら、〈大丈夫〉と寄り添うような優しさを感じました。どんなところからインスピレーションを得たんですか?

「愛しい人を亡くして、すごく悲しんで心を痛めている私の大事な人がいて、その人に元気を出してほしいなと思って書き始めました。普遍的なテーマだなと思っています。

できあがった曲は、恋人たちが離れ離れになるから最後のドライヴへ行く曲にも聴こえるし、故人を想う曲にも聴こえる。逆にその故人が生きている人に対して思いを伝える曲にも聴こえると思います。また、亮介さんと私たちが一回別れて再び出会った曲にも聴こえる。自分にとってパーソナルな曲なんだけど聴く人によって聴こえ方が違う。そういう懐の大きさというか、ゆとりのある曲で、いろんな人が自分自身のことに置き換えられる曲になったのかなと思います」

──“Smile! with 藤原さくら”もとても懐の深い曲でしたが、ゲストを招くことでそういうアプローチに向かうようなところがあったりするのでしょうか?

「2020年にリリースした『HONEY』というアルバム以降、自分のことを書こうと思うようになりましたね。以前は、〈聴き手にはこんな人もあんな人もいるかもしれない〉と考えていたのですが、私にしかわからない感情を生々しく描くことで、結果的にどこかの誰かに深く刺さるという体験を『HONEY』でさせてもらいました。

“ERROR 404”という曲に、〈きみが忘れたTシャツが、コロナ禍で全然会ってないからずっとぶら下がっている〉という描写があるのですが、そういう光景は私にしかわからないことです。だけど、割り切って書いてみたら〈深く刺さった〉という声をたくさんいただいて、正解を見つけた気がした。だから、今回もなるべく具体的に〈きみ〉を意識して書きました。

2020年作『HONEY』収録曲“ERROR 404”

“Don’t Mind Baby”には〈いつもはおしゃべりな/きみが静かにうつむくと〉という歌詞があるのですが、以前の自分だったら〈おしゃべりじゃない人もいるかもしれない。これだったらみんな共感できないかも〉って考えたかもしれません。でもそういうことはひとまず置いておいて、自分が思い描いている〈きみ〉ってどういう人だろう?と、具体性をあまり気にせず書くようになりました。

実際、〈過去の自分に別れを告げている曲に聴こえる〉っていう声を聴いた方からいただけたりして。そうやって想像する余白をきちんと残した曲になったのは亮介さんのおかげだなと思っています」