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20年以上やっていても、新しいものがまだ自分から出てくるんだ

――歌詞の話になりますが、“今バリアしてたもん”がとにかくユニーク。この曲は徳永さんのなかには梃子でも動かないピュアネスが存在していることを伝えてくれるというか、揺れはするけれど簡単にブレたりはしない、という頑丈な意思を感じてなりませんでした。

「はいはい。その頑なさや強情さを幼稚と言われたとしてもかまわない、という開き直りというか。ある種、愚直な感じですよね。このフレーズって子どもがよく使うものですが、大人が使ってもおもしろいかなと。不意にポロッと出てきたんですよ」

――へぇ~。ところでお子さんがいらっしゃるそうですが、子どもからインスピレーションを受けることって多々あります?

「それも多くありますけど、僕は基本的に何も除外するものがないんです。とにかくいろんなものから発想を得ています」

――絶妙なフレーズがミニマルに展開する冒頭の“あたためたよ、ベンチ”もおもしろい。ズブズブと足が取られていくような感覚を得るというか、聴いていると否応なしに作品に引き込まれてしまう。しかしいずれの曲も、ロックの熱狂やポップスの高揚とは遠く離れたところで鳴っている印象があって。そこには騒いだり浮かれたりすることを禁じられたこの2年間の空気が如実に反映されている気もする。

「もともとライブをするもそんなに好きなタイプではないんですよ(笑)。性分として家でチマチマやっているのが好きなもので。正直言うと、家から出てはいけない、という宣言が発令されたとき、よし、これでいっぱい録音ができる!とも思ったぐらいで(笑)」

――今回、徳永さん的にエポックな楽曲というと?

「新曲の“いつかふれる”がそうかな。自分としてもわけがわからん曲やなと思っていたんです。雰囲気はしっとりしているけど、歌詞も含めて無茶苦茶な曲。でもこういう正体が知れないもの、新しいものがまだ自分から出てくるんだということがわかって嬉しかった」

――ラブソングとして捉えられもするけれど、深い自己省察の歌にも聴こえるし、うまく言えないけども、ゆったりしているのにギリギリな緊張感が全編に漂っている。まったくもって不思議な曲。

「自分と向き合いながら何が出てくるか試しながら作るのが好きなんですよね。こういうものを作りたいという意思を抱きつつそこに向かって突き進んでいく、というよりも、自分のなかから自然に湧き出たものをまとめていくのが楽しい。で、作詞/作曲の段階までは僕個人の表現なんですけど、作品に仕上げるにあたってプロデューサー的な部分が起き出してきて、さらに音楽のヘビーリスナーである自分も登場してきて、ああでもないこうでもないと試行錯誤しながら完成へと向かう。というように、何層にもなっているんですね」

――今回のレコーディングでは、演者としての部分や監督としての部分などそれぞれの役割の比重において何か変化などはありました?

「最終的にはどうなったんだろう……アルバムを仕上げるタイミングでは、聴き手としての自分の働きが大きかったように思う。ミュージシャンとしてはできるだけたくさんの音を入れたい、という欲求にかられるものですが、今回はけっこう絞りましたからね。アルバムのムードを壊さず残すということに重きを置いた結果、出来の良い曲を外したりもしましたし」

――すると、レーベルサイトで販売中の〈ExtraSet〉に付属しているボーナスEP『惑わされていたいEP』に放り込まれたのは、そういった判断で外された曲だったりするのですか?

「ボーナスEPをつけるというアイデアは途中で降って湧いてきたんですけど、たしかにそっちへ回すことができましたね。とにかく変速チューニングのアコギインストとかをいっぱい録ってたんですよ」

――本編とEPでは曲の棲み分けがうまくできている印象がありますね。EPのほうには、少し目鼻立ちがしっかりした楽曲が並んでいる気がします。そこから導き出せるのは、本編のほうは、どこかファジーで不確定要素を多く孕んだ曲というか、不思議な佇まいをした曲が揃っているという事実だったりする。

「曲が曲を引っ張ってくるというか、曲どうしが相互に影響を与え合っているような、そういう性質を持った曲を選んだつもりです。だから独立した個性のある曲は必然的にその輪から外れていきました」

『今バリアしてたもん』収録曲“思いつめちゃいけない”

 

50代になってなお情熱と衝動を失わぬために

――本作は徳永さんが50代を迎えてから初のアルバムになるわけですけど、寄る年波が作品作りに与える影響についてお聞かせいただきたい。

「いろいろありますよ。最近子どもがギターを始めたんですけどね、すごいんですよ、おんなじ曲を朝から晩まで弾き倒してるんです。そういう無邪気さというか、まっすぐな情熱は確実に失っているなとつくづく感じていて。何日もギターを触らないことなんてザラにありますから。もともとギターを抱きながらテレビ観ているような子どもだったのに」

――あぁ、なるほど。

「近ごろは衝動に突き動かされるようなことがめったにない。なので、自分の脳に刺激を与えねば、ということで無茶苦茶なチューニングでギター弾いたりだとか、まだ出会ったことのないおもしろいものを探し出そうとはしています」

――それって自分のなかの音楽作りに向かう意欲の火を消さないための処置だったりもするんでしょうか?

「うん、そうですね。歌詞は割りあい苦労せずに書けるんですよ。ずっと変わらず自然にどんどん湧き出てくる。ただメロディー作りに関しては、若い頃のほうが瞬発力があったし、そこを維持するのはなかなか大変ですよね。まぁ、作詞の面ではまだまだ踏み込んでいない領域があるという実感を持っているし、作曲とのバランスがいい具合に働けばいいなと思っているんですが。やっぱりね、長くやっていればどうしても、似たような曲が多くなってしまうものですよ」

――ハハハ!

「僕の大好きなニール・ヤングとかも、最近の作品はもはやどれがどの曲なのか判断がつかない(笑)。それが自覚できているだけに、いろんな刺激を与えながら何か新しいものを得ようとするわけですよ」

――まぁ歌詞の領域って人間的な成長が大きく関与しますし、歳を取るごとに新しい視点が生まれたりしますもんね。

「歌詞のテーマを決めるにあたっては何も除外するものはない、と言いましたが、リミッターを取っ払ってしまえば、いろんなものが入ってくるようになりますからね。そこに人生の蓄積みたいなものが重れば、自然と広がりが生まれますし。“今バリアしてたもん”とかはまさにそういうタイプの曲。20歳の頃には描けない世界ですよね」