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ロダンの彫刻には〈永遠の憧れ〉が留められている

――アルバムの冒頭を飾る“This Foolish Heart Could Love You”ですが、3月に公開されたミュージックビデオもとても美しく、素晴らしかったです。パリのロダン美術館で撮影され、マリ=アニエス・ジロとジェルマン・ルーヴェ、そしてイッセイ ミヤケの衣装をフィーチャーした映像ですが、このビデオに関して教えてください。

「昔からこういうビデオを作りたいという夢があって……というのも、フィラデルフィアに住んでいた頃から(フィラデルフィアの)ロダン美術館は私のお気に入りの場所だった。私にとって初めて、美術という形で人間性や愛を感じ取ったのは、オーギュスト・ロダンの作品を通じてだったと思う。『永遠の青春』、『カテドラル』……これらの作品が語りかけてくる〈愛とはこういう感じなのかもしれない〉という感覚が、ずっと私の中に残った。ほぼ毎週のように美術館の庭園を歩いて過ごしたわ。美術館まで美しい庭園が広がる、フィラデルフィアの中でもとても美しい場所よ。実際、フィラデルフィアにはどこかパリに似た雰囲気を持つところもあるの。

パリに来て、パリのロダン美術館を訪れ、このビデオのことを考え始めた。“This Foolish Heart Could Love You”は〈そうなれたかもしれないけどならなかった愛〉のことを歌っている。メトロに乗っている時に二人を見かけ、彼らに起こる運命のすべてを想像し、息を飲むように見ていたら、次の駅で二人は降りてしまった……というような(笑)。

ロダンの彫刻にはそれに似た感覚があるわ。〈永遠の憧れ〉という状況が、そこに作品として留められている。たとえば『カテドラル』の〈今にも触れそうな指〉もその例よ。

『Entre Eux Deux』収録曲“This Foolish Heart Could Love You”ミュージックビデオ

この2年間、私たちはCOVIDによってアーティストとして自分を表現することができなかったことへの音楽のメタファーとして、自分にインスピレーションを与えてくれた芸術家へのオマージュを捧げ、それを形にするべき時だと感じたの。

さらには、二人の素晴らしいダンサー、マリ=アニエス・ジロとジェルマン・ルーヴェが踊ることで、彫刻に生命の息が吹きかけられ、アートそのものに光を当たる。私たちにはダンスが必要、彫刻が必要、音楽が必要……アートが必要なの。

私はアートの専門家じゃないからロダンの彫刻の作り方まで知らなかったけれど、知って驚いたのは、ロダンが作品のモデルにしたのはすべてダンサーだったということ。だから美術館でダンサーが踊ることは、本当に彫刻を生き返らせることだった! まさにそこにロダンがいて踊るダンサーを見ていて……またそこから別の彫刻が生まれるかも、というそんな思いさえ浮かんだわ(笑)。結果的に、そんなセレンディピティーを生むことになった。

伝説のエトワールであるマリ=アニエス・ジロは実はロダンの作品をよく知っていた。だから彼女に話をした時、〈あなたのやりたいことの意味が完全に理解できる〉と言ってくれたの。

現場は1日だけ。美術館すべての彫刻を使って撮影するわけにはいかなかったけど、本当に素敵な楽しい撮影だったわ。ピアノと声だけの曲にビデオを作れたなんて……だってこのようなアルバムではビデオを作ることすらしないのが普通で、チャーリー(・ヘイデン)だってミュージックビデオは作ってないと思う(笑)。曲のフィーリングを、そして私の心に近いフィーリングを形にし、さらにはオーギュストにオマージュを捧げられたわけだから、これ以上のことは望めなかったわ」