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〈2021 World Music Festival @ Taiwan〉での泰武古謠傳唱(Taiwu Children’s Ancient Ballads Troupe)

アンビエントから伝統歌、児童音楽までをカバーするWind Music

話は少し脱線するが、個人的に最近よく聴いている作品がある。吳金黛(Wu Judy Chin-tai)の『萬籟的絮語(Nature’s Whispering)』という作品だ。本作ではフィールドレコーディング音源を織り交ぜたニューエイジ~アンビエント的な音世界が広がっていて、プユマ族の陳建年や台湾の室内楽アンサンブル、シカーダ(Cicada)も参加している。これまた関さんが吳金黛にインタビューを試みており、僕はこの記事でようやく彼女が何者か把握することができた。

吳金黛(Wu Judy Chin-tai)の2021年作『萬籟的絮語(Nature’s Whispering)』収録曲“洋流裡的飛翔 Flying In The Current (feat. Cicada)”

吳金黛は多数の台湾原住民音楽作品をリリースしてきたレーベル、Wind Music(風潮音樂)の作品に90年代から関わってきた音楽プロデューサー/作曲家で、民族音楽学者の吳榮順(Wu Rong-shun)のレコーディングアシスタントも務めてきたという人物。虫や動物の鳴き声などの自然音を取り入れた作品作りでも知られ、99年には『森林狂想曲』というアンビエントポップの傑作も作り上げている。

吳金黛(Wu Judy Chin-tai)の99年作『森林狂想曲』収録曲“森林狂想曲”

吳金黛はパイワン族の子供たちによる合唱団、泰武古謠傳唱(Taiwu Children’s Ancient Ballads Troupe)もプロデュースしており、今年に入ってからはWind Musicより新作も発表している。

泰武古謠傳唱(Taiwu Children’s Ancient Ballads Troupe)の2021年作『誰在vuvu家唱歌』収録曲“蝴蝶飛啊飛(Flight Of The Butterfly)”

ニューエイジ~アンビエントテイストの台湾原住民音楽はそれこそ“Return To Innocence”の時代から星の数ほど発表されてきたわけだが、Wind Musicはそのなかでも良質な作品制作を続けてきた。同レーベルから発売された原住民の伝統歌を部族ごとに記録した音源集『台灣原住民音樂紀實』は台湾原住民音楽の金字塔ともいうべき作品だが(その一部はサブスクでも聴くことができる)、音楽作品として楽しめるだけでなく、民俗資料としての価値を持っていることは言うまでもない。そして、吳金黛はこのシリーズにも関わっているという。

92年のコンピレーションアルバム『布農族之歌 - 台灣原住民音樂紀實1』収録曲“誇功宴”

 

〈2021 World Music Festival @ Taiwan〉

原住民音楽をはじめ世界の音楽家が集結するWorld Music Festival @ Taiwan

このWind Musicがキュレーションするフェスティバルが今年も10月14日から16日にかけて台北で開催される。その名も〈World Music Festival @ Taiwan〉。そのバックボーンについては2021年11月に公開されたMikikiの記事〈「World Music Festival @ Taiwan 2021」が示した台湾音楽の伝統と新たな形〉で細かく解説されているので、詳しくはそちらをお読みいただきたい。

コロナ禍の現在、日本人観光客はなかなか気軽に現地を訪れることはできないが、ありがたいことに昨年に続いてライブの模様が配信されるらしい。本年度も台湾内外から23組のアーティストが出演すると発表されている。その一部を駆け足でご紹介しておこう。

Wind Musicがキュレーションするだけあって、台湾原住民音楽のトップランナーがラインナップされているのがこのフェスの特徴だ。昨年リリースされた最新作『Longing』が素晴らしかったアミ族出身のシンガーソングライター、イリー・カオルー(Ilid Kaolo/以莉高露)。小池龍平が編曲を担当した同作では深い味わいのアコースティックポップを展開していたが、そこには台湾原住民の神話がモチーフになっているなど、彼女しか歌えない歌世界が広がっている。緩やかな海洋性ポップスを聴かせるシンガーソングライター、陳建年も原住民音楽を代表するアーティストのひとりである。

イリー・カオルーの2021年作『尋找你』収録曲“17歲的你”

原住民音楽以外のラインナップも充実している。今や台湾でもっとも有名な日本人ミュージシャン集団であり、客家フォーク歌手の林生祥のバックを務める東京中央線。クラリネットやバスクラリネットを従えて客家語で淡くジャジーな歌を聴かせる春麵樂隊(ChuNoodle)。個性豊かな台湾勢に加え、エストニアのフォークデュオであるプーループ(Puuluup)など、国外からもさまざまなアーティストが出演を果たす。

東京中央線の2021年のライブ動画

春麵樂隊(ChuNoodle)の2021年のライブ動画

プーループの2022年のライブ動画

〈World Music Festival @ Taiwan〉は台湾原住民音楽の最先端を示すものであると同時に、共通するスタンスや視点を持つ国外アーティストを台湾の人々に向けて紹介するというテーマを掲げている。パンデミックによって国を超えた交流はリモートに頼らざるを得ない状況ではあるものの、フェスのような場は交流の貴重な機会である。ここから新たなコラボレーションが生まれることを期待したい。

〈2022 World Music Festival @ Taiwan〉トレーラー