――シーパンクも、クリスチャン・ラッセン風のオーシャンなイラストと楽曲とをセットで見せていたりとか、インターネット発のジャンルというのはヴィジュアルありきというのが肝になるんでしょうか?

【参考動画】ウルトラデーモンの2013年作『Seapunk』収録曲“Bahrain”

 

「そうですね、2010年以降はイメージが先行した音楽が増えている気がします。ヴィジュアルで世界観を作り上げて、それにBGMとして音楽を付けていくとか。あと、そういう世界観ごとにアカウントを立てて、〈こういうシーンがある〉というのを偽装して膨らませたりする人たちが出てきているのもおもしろいなと思っていて。そのなかでもMaltineと親和性の高そうなアーティストをリリースできたらいいなと思っているんです。Maltineしか居場所がないような人とか(笑)」

――なるほど~、楽しみですね! そういえば、最近tomadさんのTwitterによく出てくるUK拠点のネット・レーベル、PCミュージックも、ヴィジュアルがボーンってあって、あとは何の説明もなく音だけ聴かせる!みたいな、独特の得体の知れない感じがありますよね。

「そうですね。あのレーベルはいま勢いが凄いんですよ。イギリスは理解が早いのか、インディーのレーベルがそういったネット系のレーベルをどんどんサポートしていて、PCミュージック主宰のA.G.クックはワープやラッキーミーカシミア・キャットジャッケス・グリーンらを輩出するUKのレーベル)とアメリカの〈SXSW〉に出たりとか、この前QTっていうPC系のアーティストがXLからリリースしていましたし。ちなみにPCミュージックはJ-Popとか、〈小悪魔ageha〉に影響を受けてるって主宰のインタヴューに書いてありました(笑)」

【参考動画】QTの2014年のシングル“Hey QT”
 

【参考音源】tomadが追加でオススメするUKの謎のトラックメイカー、ソフィー“Lemonade”

 

――〈小悪魔ageha〉のどこに影響を受けたのでしょうか……(笑)。

「海外にはあまりない、人間っぽくない質感とか、カラフルさとか、そういうところかもしれません。やっぱりPC周りを中心に、イギリスのシーンはおもしろいです。ケロ・ケロ・ボニトっていう、イギリス人だけど日本語でラップするっていうユニークなユニットがあって。そこらへんがボー・エンと仲が良かったり、若干PCミュージック界隈と繋がってたりして、おもしろくなってきたなと。インターネット以降の新しいポップ・ミュージックを作ろうとしているシーンがイギリスにはあるんです。規模はそんなに大きくないんですけど、ヴィジュアルの作りもしっかりしていたりとか、調べてみると有名なアートスクール周りのコミュニティーだったりして」

【参考音源】ケロ・ケロ・ボニトの2014年作『Intro Bonito』
 

【参考音源】ボー・エンがリミックスしたケロ・ケロ・ボニト“My Party”

 

――へぇ~、おもしろそう! いまは規模が小さくても、インターネットだとあっという間に大きい流れになる可能性が大いにありますよね。

「あとアメリカでも、Maltineからもリリースしてくれたメイシ・スマイルっていうLAをベースに活動しているアーティストがいて、あの周辺も日本のカルチャーが大好きっていう人が集まっているんです。でもアメリカは〈日本のカルチャーが好き〉っていうのはマイノリティー的な存在で、堂々と表に出られないらしく、ネット上でコミュニティーが大きくなっていってるようです」

【参考音源】メイシ・スマイルの2013年作『Mysterious Summer Vacation』収録曲“Love Orchestra”
 
【参考動画】メイシ・スマイルの2014年作『Lust』収録曲“Honey”

 

――やっぱり〈オタク〉みたいなイメージを受け入れてくれないのでしょうか……。ちょっと寂しいですね。

「イギリスは、インターネットを中心としたシーンながら、ちゃんと都市に人が集まって盛り上がっているなという印象ですが、アメリカは土地の広さの問題か、各都市にぽつぽつといるアーティストがSoundcloudで交流しながら、ユルくインターネットで繋がっている感じです。どことなくアメリカのアーティストのほうがサウンドがエモーショナルなんですよね。インターネットで繋がってはいるけど誰とも会えないみたいな……そういうのが音に出てるのかな」

【参考音源】tomad氏が追加でオススメしてくれたUKの女性トラックメイカー、ET ARIAE“White Light”
 

 

――それはおもしろい考察ですね(笑)。でもそういった、まだ規模は小さいけどおもしろそうなシーンみたいなのはどうやって見つけ出したんですか?

「この前、〈SoundCloudのディグり方講座〉みたいな企画でプレゼンをしたんですけど、経験を積んで鼻を利かせるとか、怪しいところを見つけていくような感じで、地道にやっています。アーティストや楽曲が出てはすぐに消えたりすることもあるし。インターネットの海のなかにある膨大で見切れないほどの音源から、クォリティーはそんなに高くないかもしれないけど、個性のある有象無象の音楽に刺激を受けるんです」

【参考音源】PARKGOLFの2013年作『CAT WALK』収録曲“LUCKY”

 

――なるほど……私も精進します。では、最後になりますが……たぶんいろんなところで訊かれているとは思うし、愚問かもしれないのですが、今後のMaltineの方向性として、例えば音源を販売する方向にシフトすることはないんですか?

「デジタルの音源を売るつもりはないです。でも逆にCDを作るのはアリかなと思いはじめてますけどね。CDをリミテッドで売るっていうのもおもしろいかなと」

――Maltineのショウケース盤みたいなのをフィジカルで欲しいですね、個人的には。

「あぁ、来年10周年なので、何かしら出せればなとは考えています」

【参考音源】AZUpubschoolの2014年作『Good Night Girl』収録曲“Good Night Girl”

 

――お!  10周年にあたっての構想はいろいろあるんですか?

「そうですね」

――それにしても10年もやっていらっしゃるとは……(笑)。

「結構あっという間な気がするんです、自分でもこんなに長くやるとは思ってなかったですし(笑)。でもやっていくうちにどんどん注目されるようになっているので……」

――イヴェントも、いずれ〈WIRE〉レヴェルのことがMaltineならできるんじゃないかと思っていますよ。

「できたらいいですよね。でもイヴェントを主催するのは大変なので……やってくれる人がいれば(笑)。2020年には東京オリンピックがあるので、海外から人が来るタイミングで何か大きいことがやれたらいいなと思っています」