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みんな、そろそろ踊りたいよね

 なかでも止まない雨に現代のムードを重ねた“雨”は、Keishiにとって新機軸と言える楽曲だろう。初期のライを彷彿とさせる鍵盤とジャジーなリズムが実に優雅だ。

 「“雨”はピアノで作った曲なんです。自分にとっては挑戦だったし、手癖も何もないから新鮮に聴こえると思います。周りや先輩ミュージシャンからも評判がよくて、わざわざ感想を連絡してくれたりもしたし、嬉しかったですね。その一方で、“Call Me Up”みたいな〈Keishiっぽいね〉と言われそうな楽曲――自然と鼻歌で歌いたくなる楽曲も絶対に必要。この曲は、オーセンティックなアレンジ、軽やかな演奏にこだわりました」。

 古のモータウンやガールズ・グループを思わせる“Call Me Up”を聴くと、ライヴで楽しく身体を揺らしているオーディエンスの姿が脳裏に浮かぶが、実際に〈ダンス〉というのも『Chase After』のキーワードのひとつだったという。

 「拓ちゃん(村松拓、Nothing’s Carved In Stone)が作詞作曲してくれた“青のサーカス”を完成させたくらいで、アルバムの全体像は見えてきたんですが、作品の顔となる曲があとひとつ必要だなと思ったんです。そこで思ったのが〈みんな、そろそろ踊りたいよね〉ということ。この3年、見て見ぬふりをせざるを得なかったダンスというものについて、そろそろ向き合うタイミングだなと思ったんです」。

 そして、出来上がったのが2曲目に収録された“Let Me Feel It”。かねてから一緒に作業してみたかったという関口シンゴ(Ovall)をギタリストとして召喚した、ディスコ・フィールのダンス・ナンバーだ。

 「田口恵人(LUCKY TAPES)と小宮山純平のリズム隊が作ったグルーヴの上で、いかにギターで遊ぶかというのがテーマとしてあり、それにはセッキーくんが最適だろうなって。想像通りの素晴らしいプレイでしたね。バンド・サウンドを基調にしつつ、音作りの面ではコナー・アルバートみたいなプロダクションを参考にしました。自分としてはいま、良いバランスで宅録やDTMへの関心を持てているんです。PCと向き合って音楽で遊ぶことの楽しさがようやくわかってきた気がします(笑)」。

 年齢的にも創作の面でも新たなフェイズに突入しているKeishi。そのまなざしの先には、どんな次の10年が見えているのか。

 「20代にRiddim Saunterがあり、30代にはソロの10年があった。そして、40歳になったけれど、いまでも楽しみが増しているんです。それはすごく重要なことじゃないですか? 楽しく音楽をやり続けることがいちばんの目的だったし、そのために止まるわけにはいかない。まだこれから、という感覚だし、ずっとそうでありたい。だからこそ40代で大きく変わる可能性は大きくありますよ。新しいバンドを始めるかもしれないですしね(笑)」。

Keishi Tanakaが近年に楽曲提供などで参加した作品。
左から、Nao☆ (Negicco) の2020年のシングル“ベスト☆フレンド”(T-Palette)、Gotchの2020年作『Lives By The Sea』(only in dreams)、V6の2021年作『STEP』(avex trax)、村松拓の2022年のシングル“遠くまで行こう”(Fireplace)

『Chase After』に参加したミュージシャンの作品を一部紹介。
左から、Ovallの2019年作『Ovall』(origami)、Yaffleの2020年作『Lost, Never Gone』(Picus)、LUCKY TAPESの2022年作『BITTER!』(ビクター)