三輪二郎

シャレたソウルもすぐに伴瀬節に

三輪「じゃあ順番に各曲について思ったことを言っていきますね。

まず1曲目“コロニー”から。これは一瞬、シュギー・オーティスみたいなシャレたソウルっぽいのが始まったと思うんだけど、ところがすぐに伴瀬節になるのが面白かった」

伴瀬「イントロがそうだね」

三輪「どの曲もイントロがいいよね。歌に入ったときの落差がとてもいいんだよ。工夫してるよね」

伴瀬「それは得意ではないけど、好きなんだよね」

三輪「おれは、イントロはロックンロールやブルースのコードで曲を始めるからさ」

伴瀬「それで済むなら、それにこしたことないんですよ。それで済まないから……」

三輪「努めてやってるんだ?」

伴瀬「そうそう。ジローにあるものが僕には無いからさ、いろんな粘土を塗りたくって固めてるわけよ」

三輪「それが伴瀬君の感じだから、いいんだよね」

伴瀬「それはアルバム用の作りで、でも今回はライブの弾き語りでも見劣りしないようには作れたかな。バンドでやる機会がなかなか作れないから」

三輪「“コロニー”はアナホールクラブバンドを思い出したな、違うか。

で、次が“談合坂”。ギターのリフがカッコいいね。ピーター・アイヴァースみたいだよ。〈談合坂〉って何?」

※編集部注 伴瀬朝彦を中心に、前進バンドのライダーキックからホライズン山下宅配便とともに分化したバンド。2011年に〈とんちれこーど〉からアルバム『泥笛』をリリースした

伴瀬「談合坂サービスエリアをよく通るんですよ。長野に移住したから車生活になって東京と長野を行き来すると、談合坂で休憩したくなる。それでこの2、3年、誰とも談合出来てないねっていう」

三輪「イントロのキュルキュルって音はギター?」

伴瀬「キーボード、Nord Lead(アナログシンセサイザー)ですね」

三輪「これ、カッコいいね! ホントいろいろ仕掛けあるんだけど、心が乱れないよね。つまり気持ち良く聴ける、まとまってきれいに聴こえる」

 

伴瀬の頭の中にある見知らぬ世界や桃源郷が音楽に

三輪「そして3曲目“ドクロの恋人”はサンバ調だね」

伴瀬「サンバを感じた?」

三輪「ボサノバか。しかし、歌詞がいつも独特だよね。誰かに影響されたことはあるの?」

伴瀬「それがあまりなくて。谷川俊太郎の詩を読むくらい」

三輪「日本語であることのこだわりはある?」

伴瀬「こだわりというか、日本語の方がいいだろうというのはある。英語はちゃんと喋れないからね。英語の語感の方が曲は作りやすいから、その語感でメロディーも作るんだけど」

三輪「伴ちゃんの歌は、リズムとメロディーに、その言葉が乗った時に、イメージの電気がパッとつくからね。日本語で生活してるから日本語の方がいいんだろうけど」

伴瀬「どっちでもいいとは思うけどね。どちらかと言うと語感の方を大事にするかな」

三輪「気持ちよく日本語を乗せてるよね。意味が先じゃなくて」

伴瀬「もちろん、意味も多重構造で表して、後付けの部分もあるけど」

三輪「イメージがね、それがホント面白いんだよ。どんな人なのか、どんな街なのか、いつなのか、それらが不明でさ、そこがエキゾチックなんだよ」

伴瀬「そこはいつも特定しないようにしている。“談合坂”は特別な例だね」

三輪「伴ちゃんの頭の中にしかない見知らぬ世界や桃源郷を音楽にしてるんだよね」

伴瀬「それが醍醐味です。どこかの町に行ってその町を美しく歌い上げるというのは自分には出来ないから」

三輪「おれのは、どっちかと言うとそれだから」

伴瀬「そのロマンを描けるジローはすごいよね」

三輪「これはいい意味でなんだけど、伴ちゃんの歌は心細くなる」

伴瀬「それはいい効果かも」

三輪「面白いんだよ。声は温かいのにね。音程がいいから聴き手に安心感を与えると思いきや、そっぽ向くよね」

 

車に乗る人、乗らない人で音楽の作り方が変わる

三輪「そして、4曲目の“ブランコ”。これはとてもきれいな曲で、ワルツだね。コード進行もメロディーも歌詞もきれいでロマンチックだな。これは不安に、不穏にならないね。温泉の町、そんな景色が浮かぶ」

伴瀬「それは面白いな。歌詞を作っている時は全く違うこと考えてたけどね」

三輪「ドライブに合うよ、この曲」

伴瀬「車に乗ることが多くなったからね、それを考えるようになった」

三輪「車に乗る人と、そうじゃない人では音楽の作り方が変わるようだね」

伴瀬「そうそう。変わった」

三輪「ニュートラルな気持ちで音楽を聴ける空間だからね」

伴瀬「それに、車で走っているとゴォーって音がどうしてもあるから、それを抜け出すような音を欲するようになるんだよ」

三輪「次の“ネムレマイクイーンビー”は、可愛いね。スイングフォークっていうか、ダン・ヒックスみたいな」

伴瀬「長野に移住してから蜂の巣に出くわすことが多くて、そんな歌」

三輪「女性のことを歌っているのかと思った。伴ちゃん、モテるから」

伴瀬「いやいや、蜂の生態が面白いなって」

三輪「間奏の服部(将典)さん、いいよね」

伴瀬「そう、効いてますね。コントラバスを重ねて録りました」

三輪「ここでドゥーワップみたいなコーラスが入るね。よく思いつくね」

伴瀬「この曲、自分としてはスタンダードかな。捻くれたことはやってない」

三輪「しかし、音の重ね方は独特だよ」