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私は音楽でやっていくんだ!という強い意志の持ち主(井上)

――レコーディングを行ったのは8月だったんですか?

あゆみ「9月ですね。ただちょうど大学がはじまって、今年から対面授業が増えたから忙しくなってしまって」

※8月26日と9月1日にレコーディングしている(スタッフ談)

――ちょうどこの曲と出会ったのが20歳になるタイミングだったんですよね。

あゆみ「井上さんと初めてお会いしたのが誕生日の3日前、ギリギリ10代の頃でした。20代になるタイミングだし、きっと大きな変化があるだろうと思っていたので、ぜひグランプリを獲りたかったんです」

井上「見かけによらず、けっこう肝っ玉が据わってるんですよ。〈この仕事をやるのに一念発起して地方から出てきた〉ぐらい気合があって、〈ダメだったら帰ればいいや〉って感じじゃないんですよ。いまは仕事をポンポン変えられる時代だけど、昔気質というか、私は音楽でやっていくんだ!っていう強い意志の持ち主。19のとき、僕も家出してますから」

――家出ですか?

井上「そう、鶯谷から山手線に乗っていちばん遠い駅で降りて、そこに引っ越したんです。沿線だから乗り過ごしたらまた戻ってきちゃうんだけど(笑)。とにかく音楽やるしかない、って自分自身を追い込んだ思い出がある。19っていったら決断するときですよね」

――それってアルバム『JAZZ』(87年)を作っていた頃ですか?

井上「そうです。デモテープを作って、ディレクターに〈聴いてほしい〉って持っていってた頃。だから変化の時期というよりも、自分の人生を考える時期だよね」

あゆみ「そうですね。私は、小学生の頃からずっと歌手になりたかったんです。中学生になって〈歌を勉強したい〉って言ったら、母親から〈何のためにやるの?〉と言われ、あまり良い反応ではなく、そこから1年かけて説得しました。その頃から歌への熱意は変わっていないと思います。

このイベントの告知を見つけたときは、ぜひ出たい!と思いました。ミクチャでの配信は大学1年生の夏に始めて、一時期離れていたんですけど、オーディションがあるなら戻ろうと思って」

 

配信はいつも課題や不安との戦い(あゆみ)

――人前で歌を披露したのは配信の場が初めて?

あゆみ「ハイ。配信を始めたのは、高3のときに受けた大きなオーディションに落ちてしまい、この先どうしようか?と考えていたときでした。何かしら新しい挑戦がしたくて。

人前で歌った経験は、オーディションの最終審査が初めてだったんです。このあいだ初めてライブをやらせてもらいました。最後に“優しくしないで”を歌わせてもらって、みんなから〈よかったよ〉って言ってもらえたんですよね」

――いまは配信がデビューするためのひとつの手段になっていて、多くの人が利用しています。それって大きな変化ですよね?

井上「そうなんですよねぇ。でも配信で毎日のように歌ったり喋ったりして、いろいろ大変で心が折れそうになったことがあるって言ってたよね?」

あゆみ「ハイ」

井上「配信って簡単なのかな、って思ってたけど大間違い。以前のやり方より過酷な気がする。いまのファンの人たちって、〈全部見せて〉って感じでしょ? 失敗しているところも、めげそうになっているところも含めて。昔はキレイなところだけ見せれば事足りていたわけだから。で、毎回生歌を披露するんだもんね?」

あゆみ「そうですね。私はさほど経験ないですけど、配信って心無いコメントが飛んできたとき、反応を顔に出せない大変さがありますよね。どう対処すべきかを瞬時に判断しなきゃいけなくて」

――あぁ、ライブ中に飛んでくる野次みたいなものですね。

井上「そうだよねぇ。それって売れたらなくなるって話じゃないんだよね? 僕らの頃は、ちっちゃいライブハウスでは野次がつきものだったけど、武道館まで行くとそれがなくなる、みたいなことがあったけどね」

あゆみ「観てくださる人が多くなればなるほど、いろいろな問題や課題が出てくるんです。でも、そういうときの対応ひとつで人間性を見られてしまうところがあるので神経を使いますね。今回の配信期間は2か月ほどあったんですが、毎回そういうことと格闘しながらやっていました」

――メンタルの維持の面でも苦労されていたんですね。

あゆみ「あと、ずっと1位を獲らせてもらっていたから、そこから落ちたらどうしよう……って不安との戦いもありました。だからやれる努力はなるべくやろう、と思って配信時間を長くしたりしました」

井上「応募したみんながそういう努力をしていたんだろうね。最終選考に絞られた皆さんはホントに歌が上手だった。配信での1位はあゆみちゃんだけど、これはどうなるかわからないぞ、って空気も現場に流れてましたよ」

あゆみ「私は、歌を披露するのが5番目でいちばん最後だったんですよ。配信期間中は、他の方の歌をしっかり聴く余裕がなくて、ちゃんと聴いたのが最終審査のときでした。〈緊張している〉って言いながら、みんなステージ上ではすごく堂々としていて」

井上「期末テストあるあるだよね。〈ぜんぜん勉強してない~〉とか言ってたくせに、すごい点数とっちゃったりする人(笑)」

あゆみ「(笑)。やっぱりみんなすごいな、って。そういうプレッシャーを抱えながら本番を迎えましたね」

井上「どうやって気持ちを切り替えたの?」

あゆみ「紹介動画が流れているとき、これはもうやるしかないな、って」